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第71話 恋人の過去

 進一郎が駅前にあるファミリーレストランへ入ると、越智は奥のテーブル席に座っていた。  進一郎は越智の向かいの席に座ると、ウエイトレスにコーヒーを頼んだ。 「突然呼び出したりして悪かったね。昼間はどうしても外せない用事があって」  ウエイトレスが行ってしまうと、越智はそんなふうに話を切り出した。 「いえ。そんなことは全然構わないんですけど。話って、いったい……?」  冬多に関することには違いないだろうが、今朝の退行催眠でなにか重要な問題でも見つかったのか……? 「うん。君は冬多くんのことを本当に心配しているし、冬多くんもまた、誰よりも君を信頼している。だから今朝の退行催眠で、分かったことだけでも話しておこうと思って」  やっぱり……。  進一郎の緊張がにわかに高まる。  コーヒーが運ばれてきて、ウエイトレスが去ると、越智は話を整理するように少しのあいだ考えてから、ゆっくりと話し出した。 「まず、冬多くんの両親なんだけど、彼が小学校に入ってすぐに離婚している。より正確に言うと、実の母親が別に男性を作って駆け落ち同然に家を出て、そのあとに離婚が成立したんだ。そして、それから父親が冬多くんに暴力を振るい始める。そのやりかたは狡猾で、おなかとか背中とか、衣服で見えないところを狙って殴る蹴るを繰り返す。冬多くんの体にあざがあるのを小学校の教師に見られるのを恐れて、父親は冬多くんには体育の授業は一切受けさせなかったみたいだね」 「……そんなひどいことを」  進一郎は怒りに声が震えるのを感じた。  小さな体を丸めて、父親からの暴力に耐える幼い冬多が脳裏に浮かび、涙が零れそうになる。   しかし、越智の話はまだ始まったばかりだったのだ。

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