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第72話 虐待

 越智は話を続けた。 「虐待はだんだんエスカレートしていって、煙草の火を肌に押し付けるまでになる。それもまた、半袖になっても見えない腕の付け根に。父親は一か所ばかりに集中的に煙草を押し付け続けた」 「右腕の付け根の裏側……」  進一郎の口から勝手に言葉が漏れる。あまりの怒りと不快さに吐き気がした。 「そう。火傷が治りきらないうちにまた火を押し付ける。君が見た冬多くんの火傷の跡だね」 「なんてことを……」  進一郎は十七歳だ。まだたった十七年しか生きていないので、本気で誰かを殺してやりたいと思ったことはなかった。  けれども今、冬多の父親に対して激しい殺意を覚えていた。 「……冬多くんが小学五年の頃、父親の暴力は止まる。会社のパーティで、ある女性と知り合い、交際を始めたからで、まったく勝手な話だけどね。そして、冬多くんが六年生のとき、父親はこの女性と再婚する。冬多くんの今の継母だよ」 「…………」  進一郎はもう言葉も出てこなかった。  それでも越智は話を続けていく。 「再婚後、しばらくは、今、冬多くんが住んでいるマンションの4LDKタイプの部屋で三人で暮らしていたけど、冬多くんが中学に入学したのを機に、彼を同じマンションの2LDKの部屋に移し、一人暮らしをさせる」 「え……? 中学生に一人暮らしを、ですか?」 「ああ。あのマンションは父親がオーナーなんだよ。だからそんな無茶なこともできたんだろう。それが今現在も冬多くんが住んでいる部屋で、父親と継母は同じマンションに住んではいたけれど、まったく行き来はなかったらしい。……なんだかね、暴力という形の虐待はなくなったけれど、今度は養育放棄だ」

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