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第73話 顔を隠す理由

 越智は冬多の過去を淡々とした口調で話しているが、内心ではかなり憤っているようだった。  リムレスの眼鏡の奥のいつも穏やかな瞳が、険しい色をおびている。 「冬多くんが中学二年のときに異母妹が生まれる。そして去年の四月、冬多くんの高校入学と同時に、父親、継母、異母妹の三人は隣町の一戸建てに引っ越した。父親は毎月、冬多くんの銀行口座に多額の生活費を振り込んではいるが、様子を見に来ることはおろか、電話をかけて来ることさえない」 「…………」  ファミリーレストランの喧騒がどこか遠くに感じられた。  冬多の父親も継母も、親とは言えない。ただの人でなしだ。  しばらくの重い沈黙のあと、越智が聞いてきた。 「冬多くんは眼鏡と長い前髪で、過剰に顔を隠しているよね?」 「……はい。この頃は、オレと二人で部屋にいるときだけは、素顔を見せてくれますけど。なんか、自分の顔が嫌いだって言って……」  越智が軽くうなずく。 「冬多くんはね、とても母親似なんだそうだ。他に男性を作って出ていってしまった実の母親に。だから父親は、冬多くんの顔を毛嫌いして、ことあるごとに罵倒していたらしい。小学生になったばかりの冬多くんに『おまえの顔を見ていると不愉快になる。反吐が出そうだ』そんな言葉を浴びせかけ続けた。結果、冬多くんは自分の顔にひどいコンプレックスを抱えてしまうようになってしまったんだ」 「そんな……」  進一郎はもうその言葉しか出てこなかった。  怒りを通り越して悲しくなってくる。  自己や人格がまだちゃんと形成されていない子供が、そんな罵倒を受け続け、暴力を受け続けたら、自分の顔が嫌いになって当然だ。 『僕の顔を見ると、みんなが不愉快になるから』  いつだったか、冬多は言っていたことがあった。  今になって考えてみれば、冬多があんなふうに思い込んでいて当然である。  ……本当は人より何倍も優れた容姿に恵まれているというのに。

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