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第75話 奇妙な三角関係
ファミリーレストランを出て越智と別れると、進一郎は自宅への道をゆっくりと歩きだした。
鉛の塊を飲み込んだみたいに心が重かった。
想像していたよりもはるかに痛ましかった冬多の過去。
きっと耐えきれなかったんだろう。だから冬多は辛い過去を心の奥深くへ封印してしまい、記憶がほんとどない。……夢を見て泣いていたけれども、過去を夢に見ていたのかもしれない。
進一郎は重い足を運びながら、考える。
一方で、シゼンの人格はなにもかもを憶えている。
冬多と一緒に辛いときを過ごしてきて、冬多のすべてを知っている。
そして、多分、本気で冬多のことを愛している……。
だからオレは、冬多の恋人であるのと同時に、シゼンの恋敵でもあるわけだ。
彼の体は一つしかないというのに。愛されているけれども、憎まれてもいる。
……これも三角関係というのだろうか……?
やりきれない現実に、進一郎はなす術もない。
家へ帰り着いたときにはもう十一時を回っていた。
進一郎は冬多の声が聞きたかったが、電話をかけるにはマナー違反の時間だし、もう眠っているかもしれないので、メールで夕食のお礼と、起きていたら電話が欲しいと送っておいた。
シャワーを浴び、自室に戻ってきて、スマートホンを確かめたが、冬多からの着信もメールもなかった。やはりもう眠ってしまったようだ。
進一郎も疲れ切っていたので、濡れた髪を乾かすのもそこそこに、ベッドへもぐり込むと、すぐに眠りへと落ちて行った……。
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