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第76話 もう一人の彼の反抗
静かな部屋にスマートホンの着信メロディが響き渡った。
進一郎は眠りの世界から少しずつ現実世界へと戻されていく。
重い瞼をこじ開けながらサイドテーブルに置いてあるスマートホンに手を伸ばした。
そこに記されている名前を見て、眠気が一気に吹っ飛んだ。
冬多からだった。時刻は午前二時過ぎ。
慌てて通話キーをタッチする。
「はい、もしもし、冬多!?」
〈…………〉
電話の向こう側、確かに気配はするのに、冬多はなにも言わない。
不安がざわざわと這い上がってくる。
「冬多!? どうしたんだ? なにか、あった?」
胸を不安でいっぱいにしながらも、進一郎は懸命に話しかけた。
〈……ふざけたことしてんじゃねーよ、おまえ〉
しばらくの沈黙のあと、聞こえてきたのは冬多の声だったが、冬多ではなかった。
「……おまえ、シゼンか……?」
〈そうだよ。なんのつもりだよ!? あんなやつに冬多の過去を探らせやがって……、ほんとうざいんだよ、あんたもあの医者も〉
「冬……シゼン、おまえは……」
しかし、どうしても次にいうべき言葉が出てこない。進一郎はきつく唇を噛みしめた。
〈あんたたち、冬多の中からオレを消そうとしてるわけ? 絶対、そんなことはさせないから〉
「…………」
スマートホンを持つ手にジワリと汗が滲む。
〈あんたがあの医者に聞いた通りだよ。冬多とオレは辛い過去を一緒に生きてきたんだ。昨日今日、冬多と親しくなっただけのあんたが横から入ってくるんじゃねーよ!〉
シゼンは鋭利な刃物で切り付けるように言うと、一方的に電話を切った。
進一郎はすぐにかけ直したが、すでに電源が切られたあとだった。
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