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第77話 彼の涙
進一郎は初冬の夜の町を走り、冬多のマンションへと急いだ。
もうすっかり憶えてしまっているオートロックを解除し、冬多の部屋の前へ立つ。
インターホンを鳴らそうか迷い、ドアノブに手をかけると開いていた。
「……冬多?」
声をかけながら部屋へ入ると、中は真っ暗だった。
あの電話のあと、眠ってしまったのだろうか?
そう思いながら、手探りでダイニングの電気のスイッチを入れる。
たちまち明るい光が降り注いで、眩しさに目を瞬いた。
進一郎は廊下へ出て、トイレとバスルームを見てみたが、どちらにも冬多はいなかった。
ダイニングへ戻り、リビングへと通じる扉を開ける。
「冬多……!」
冬多はそこにいた。
ナイトライトの淡い光に照らされ、ソファで膝を抱えてうずくまっていた。
長い前髪が顔を覆い、表情は見えないが、華奢な肩が小さく震えている。……泣いているみたいだった。
「冬多……? 大丈夫か?」
進一郎が彼の傍に行こうとしたとき、
「うるさい……!」
冷たく、激しい憎悪の籠った声が叫ぶ。そこにいたのは、冬多ではなく、シゼンだったのだ。
シゼンは叫び続ける。
「なんでだよ……!? 冬多とずっと一緒にいたのはオレなのに、痛みも悲しみも寂しさも、なにもかも共有してきたのに……、冬多はオレを必要としなくなってきている……」
「…………」
「一人ぼっちの冬多の傍にいつも寄り添って生きて来たんだ。オレには冬多しかいないし、冬多にもオレしかいない……、ずっと、いつまでも、オレたちは一緒なはずなのに……」
嗚咽混じりの声は、シゼンのものであると同時に冬多のものでもある。
進一郎の胸が痛んだ。
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