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第78話 砕け散る心

「シゼン、君はもう冬多の中へ帰るんだ……、それが一番、冬多のためにも君のためにも幸せなことだと思う。冬多はオレが絶対に守る、約束するから……」  進一郎は懸命にシゼンへ話しかけた。  人でなしの父親から幼い冬多を現在に至るまで、守ってきたのは確かにシゼンの人格である。彼の立場になって考えてみれば、進一郎は横恋慕の邪魔者にすぎないのだから。  でも、それでも、彼の体は一つなのだ。冬多とシゼン、二つの人格が同居している状態を認めるわけにはいかない。  シゼンは、進一郎の言葉にキッと顔を上げると、すさまじいまでの憎しみを込めた瞳で睨んできた。  そしてテーブルに置いてあった硝子のコップを手に取ると、進一郎のほうへ思いきり投げつけた。  反射的に上半身を逸らしたので、硝子のコップが進一郎を直撃することはなかったが、勢いよく後ろの壁にぶつかり、けたたましい音とともに粉々に砕け散った。  砕けた破片の一つが進一郎の頬をかすめた。 「……っ……」  熱い痛みが頬を走る。  シゼンは肩で息をしながら、進一郎に言葉を突き付けた。 「冬多はオレが守るんだ……! オレが――」  突然スイッチが切れたようにシゼンの体が力を失い、そのままソファに倒れ込んだ。 「冬多っ……!」  進一郎は彼のもとへ駆け寄り、体を抱き起こす。  瞼は閉じられ、薄く開かれた唇は穏やかな呼吸をしている。このまま眠ってしまうかのように思えたが、小さく身じろぎをしたあと、冬多の瞼がゆっくりと開かれた。 「冬多……?」

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