78 / 94
第78話 砕け散る心
「シゼン、君はもう冬多の中へ帰るんだ……、それが一番、冬多のためにも君のためにも幸せなことだと思う。冬多はオレが絶対に守る、約束するから……」
進一郎は懸命にシゼンへ話しかけた。
人でなしの父親から幼い冬多を現在に至るまで、守ってきたのは確かにシゼンの人格である。彼の立場になって考えてみれば、進一郎は横恋慕の邪魔者にすぎないのだから。
でも、それでも、彼の体は一つなのだ。冬多とシゼン、二つの人格が同居している状態を認めるわけにはいかない。
シゼンは、進一郎の言葉にキッと顔を上げると、すさまじいまでの憎しみを込めた瞳で睨んできた。
そしてテーブルに置いてあった硝子のコップを手に取ると、進一郎のほうへ思いきり投げつけた。
反射的に上半身を逸らしたので、硝子のコップが進一郎を直撃することはなかったが、勢いよく後ろの壁にぶつかり、けたたましい音とともに粉々に砕け散った。
砕けた破片の一つが進一郎の頬をかすめた。
「……っ……」
熱い痛みが頬を走る。
シゼンは肩で息をしながら、進一郎に言葉を突き付けた。
「冬多はオレが守るんだ……! オレが――」
突然スイッチが切れたようにシゼンの体が力を失い、そのままソファに倒れ込んだ。
「冬多っ……!」
進一郎は彼のもとへ駆け寄り、体を抱き起こす。
瞼は閉じられ、薄く開かれた唇は穏やかな呼吸をしている。このまま眠ってしまうかのように思えたが、小さく身じろぎをしたあと、冬多の瞼がゆっくりと開かれた。
「冬多……?」
ともだちにシェアしよう!