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第80話 決意
冬多の悲痛な声が口づけに呑み込まれる。
進一郎はしばらくのあいだ唇を重ね続けた。
やがてゆっくりと唇を離すと、今一度、冬多の体を自分の腕の中に抱きしめる。
まだ冬多の体は小さく震えていた。
幼子をあやすように柔らかな髪を撫でながら、進一郎は囁いた。
「バカ。オレが冬多のこと嫌いになるわけないだろ。こんなにおまえが好きなのに……。そんなにオレのことが信じられない?」
冬多は進一郎の言葉に何度もかぶりを振った。
「そうじゃない……、そうじゃないけど……。僕は佐藤くんがいなければダメなんだ。佐藤くんに嫌われちゃったら、と思うと怖くてたまらなくて……」
そう言うと、進一郎の胸に強く縋りついてくる。
「オレだって、同じだよ。冬多がいてくれなきゃ、ダメだ。好きなんだ……冬多、愛してる」
「佐藤くん……」
進一郎は冬多を抱き上げると、寝室のベッドへ運び、自分も彼の隣に体を滑り込ませる。
冬多を腕の中に包んで、眠りにつくのを見守ってから、進一郎もまた目を閉じた。
恋人の穏やかな寝息を耳に、眠りに落ちていきながら、進一郎は一つの決意を抱いていた。
自分がもっと大人になったら、冬多をここから連れ出して、二人で一緒に暮らそう。
いつかきっと冬多を救い出してみせる――。
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