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第85話 もう一つの人格の決意

 楽しい時間というのはあっという間に過ぎるものだ。  それが愛する人と二人きりで過ごす時間ならなおのことで、進一郎と冬多が学校をサボった日は瞬く間に夜になった。進一郎もさすがに帰らなければいけない時間となる。  シゼンのこともあるので、本当はずっと冬多と一緒にいたいけれども、まだ高校生の進一郎にはそれはできない。自分の無力さに唇を噛みしめる。 「いつでも電話かけて来いよ、冬多。オレはすぐに来るから」 「平気だよ。また明日、学校で会えるんだし……」  エントランスホールまで見送ってくれた冬多は、そう言って笑ったが、内心ではかなり不安を感じ、寂しがっていることが伝わってきて、進一郎はまさに後ろ髪を引かれる思いだった。  ……シゼンの人格はまたすぐに現れるのだろうか?  家路につきながらも進一郎は心配でならなかった。  けれど、進一郎の心配をよそに、その後の数日は平和に過ぎていった……。  ――ただそれは、嵐の前の静けさに過ぎず、シゼンは冬多の中でひっそりと、ある決意を固めていたのだった。  その電話がかかってきたのは、ひどく冷え込んだ金曜日の早朝だった。  まだ空は暗く、早起きの鳥たちがようやく目を覚まし始めた頃、進一郎のスマートホンがけたたましく着信メロディを響かせた。  進一郎はベッドから飛び起きた。  こんな時間に電話をかけてくるのは冬多かシゼンしかない。 「もしもし、冬多!?」 〈佐藤く……ん……〉  電話をかけてきたのは、冬多だった。だが、その声はひどく弱々しく苦しそうで……。 「冬多っ!? どうした? 冬多!」  ザワリと厭な胸騒ぎを感じ、背中を冷たい汗が伝う。 〈……佐藤くん……、たすけて……〉  そして、それだけ言うと、電話は唐突に切れてしまった。

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