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第87話 心中計画

 進一郎は激しい動揺に襲われながらも、自分を見失わないように気持ちを奮い立たせた。  冬多の手首の傷を手早く止血して、救急車が来ると一緒に乗り込んだ。  すでにシゼンのほうの意識もなく、冬多は力なく救急車の揺れるがままに体を任せている。  部屋に散らばったたくさんの鎮痛剤の空箱から推測するに、シゼンの人格が冬多に薬を飲ませて、手首を切ったというところだろうか。  進一郎が受けた電話は、シゼンに取って代わられる寸前の、冬多が助けを求める声だったのだ。 「……どうして、こんな……」  進一郎の口から絞り出すような声が漏れた。 「君、大丈夫かい? ひどい顔色してるけど」  隣に座る救急隊員が心配そうに進一郎を見ている。 「……はい。大丈夫です……」 「もうすぐ病院に着くからね」 「……はい」  救急隊員の優しい声に、こらえていた涙があふれて、頬を伝った。  病院に着くと、冬多はストレッチャーに乗せられて、集中治療室へ運ばれた。  ドアが閉ざされ、『処置中』というランプが点る。  進一郎は時間外の、ガランとした病院の廊下の長椅子に座って、ガクガク震える体を抑えながら恋人の無事を祈り続けた。    ランプが消え、ドアが開き、中から治療に当たっていたと思われる男性医師が出てきた。  進一郎は医師のもとへ駆け寄った。 「先生、冬多……冬多は……!?」  心配のあまり挑むような声になってしまった進一郎へ、医師は穏やかに微笑んだ。 「大丈夫。手首の傷は深かったけど、発見が早かったから大事には至らなかった。かなりの量の鎮痛剤を飲んでいたので、胃洗浄をして、活性炭を注入して。今は落ち着いて眠ってるよ」

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