89 / 94
第89話 夢の中
*
……広くて綺麗な部屋、ここはどこ?
こんなに広い部屋なのに、隅っこで小さくうずくまっている子供がいる。
あれは……、
……そう、あれは、幼い頃の僕だ。
父親に怯えて、独りぼっちの寂しさに震えて……。
怖い、さみしい。
――でも、友だちができたんだ。
名前は、シゼンくん……。とっても優しくて、強い、僕の友だち。
玄関のほうでドアが開いた音がした。
お父さんが帰って来たのかな……?
小さな体をより小さくして、幼い僕は震えている。昨日の火傷の跡がまだ痛い。
「冬多」
でも、聞こえてきたのは、とてもとても優しい声、お父さんじゃない。
シゼンくんでもない。
ふと見ると、背が高くて、とてもかっこいい男の人が立っていた。
その人は僕に手を差し出してくれる。
僕はその手をそっと握った。
……ああ、この人は……、
佐藤くん……。
*
ともだちにシェアしよう!