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第90話 傍にいてくれるなら
進一郎は、どれくらいのあいだ声を殺して泣いていただろうか。
不意に冬多の瞼がかすかに震えたかと思うと、ゆっくりと開かれていく。
「冬多……? 冬多……!」
進一郎が見守る中、徐々に瞼が開かれ、やがて宝石のような瞳があらわになった。
「冬多……!」
冬多の瞳はしばらく虚空を彷徨い、そして進一郎の姿をとらえる。
「……佐藤くん……」
冬多は、はっきりと進一郎を認めた。
そこにいたのは、表情も口調も、まぎれもない冬多だった。
進一郎の誰よりも大切な恋人の、冬多……。
「冬多……、冬多……」
「……佐藤くん……、泣いてるの……?」
心配そうに聞いてくる冬多。進一郎は照れくさくて、顔を逸らした。
「泣かないで……、佐藤くん……」
冬多が傷のない右手を伸ばしてきて、進一郎の頬へ触れる。
「僕は大丈夫だよ……、佐藤くんがいてくれたから……。これからも、佐藤くんがいてくれるなら……」
「冬多……」
進一郎は冬多の右手を自分の両手で包み込み、しっかりと握りしめた……。
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