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第91話 短くなった前髪
冬多の父親とは何度目かの電話でようやく連絡が取れた。
冬多が自殺未遂をはかったことと、入院することを伝えたのだが、父親は一言、「入院費は振り込んでおく」と言っただけだった。息子の具合を心配する言葉もなにもなしで。
冬多は未成年なので、入院するにあたって、保護者の同意書などが必要なことを伝えても、「秘書をよこすから」と来た。
継母のほうとは結局連絡がつかなかった。
進一郎は強い憤りを感じたが、人の心を持っていないような輩になにを言っても、しょせん無駄と諦めた。
翌々日の日曜日の午前中に、越智が見舞いに来た。
越智は、冬多……というか、シゼンの人格の自殺未遂に、主治医としてひどく責任を感じていたが、冬多の元気そうな顔を見て安堵した様子だった。
午後には、進一郎の姉の玲奈が彼氏とともに見舞いに現れた。
玲奈は冬多を見ると、怪我の具合を訊ねるより前に、
「あら、かわいい。冬多くん、髪、切ったのね」
はしゃぎながらそう言った。
冬多は恥ずかしがって、うつむいたままで、目にかからない長さまでカットされた前髪に触れた。
「看護師さんに切られちゃいました……。目が悪くなるからって……」
本当は軽い度の入った眼鏡もやめたほうがいいと言われているらしいのだが、そのハードルはまだ越えられないようだ。
冬多の『散髪』には進一郎も立ち会った。
看護師の一人が昔、美容師を目指していたらしく、前髪だけでなく、全体的にシャギーを入れたりして、できあがった髪型はとても冬多に似合っている。
「進一郎は我が弟ながら超イケメンだし、冬多くんはかわいいし、もうあんたたちって最強のカップルよ、ねー」
玲奈が隣の彼氏に同意を求め、続けて言う。
「私が彼を婿にもらって、佐藤家の跡取りを産むから、進一郎は冬多くんを幸せにするのよ」
その宣言と命令に、冬多は真っ赤なっていた。
応援してもらえるのはうれしいが、あんまりあけっぴろげにされると、こちらが恥ずかしい、進一郎は苦笑しながら、そんなふうに思った。
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