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第92話 もう一つの筆跡
進一郎は、平日は放課後、直に病院へ行き、その日進んだ授業をざっと冬多に教えた。
そんな中で気づいたのだが、彼の成績がイマイチ良くないのは、極端に自分に自信がないことが原因らしかった。
実力は人並み以上にあって、一緒に勉強していると、そのことがよく分かった。物事を理解するのも早いし、物覚えも良い。もしかしたら、運動に対しても同じなのかもしれない。
そして冬多のノートを見ていると、ところどころに明らかに筆跡の違う箇所があった。
きっとそれは、シゼンの字なのだろう。
進一郎が初めてシゼンの人格を見たのは、ミヤチたちにからまれたときだったが、それ以前から彼は現れていたのだ。
ときには冬多が眠っているあいだに、宿題をしてあげたりして……。
シゼンは金曜日の早朝のあのときよりあと、まったく現れていない。
冬多もあれ以来記憶が飛ぶことはないと言っているし、病院は夜には定期的に看護師が病室を巡回する。だが、今のところ看護師から冬多の異変を思わせることは聞いてはいない。
冬多の中からシゼンの人格は消えたのだろうか?
それとも完全に冬多の中へと溶け込んだのだろうか?
考えても分かるはずはないけれども。
けれど、その答を進一郎は思いもかけない形で知ることになる――。
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