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第93話 伝言

 その日、六時間目の授業が自習になったので、進一郎は一時間早く病院へ着くことができた。  個室のドアをノックしたが、返事がないので、そっとドアを横に滑らせて中へ入ると、冬多はぐっすりと眠っていた。  外は冬の風が日ごとに冷たさを増しているが、病院の中はいつも適度な温度に保たれているし、病室の大きな窓からは午後の日差しがたっぷりと注いでいる。つい眠り込んでしまっても無理はない。  進一郎は冬多を起こさないように、部屋の隅に置かれた椅子を持ってきて、彼の傍に座った。  そのとき、ベッドサイドにあるテーブルに紙が一枚置かれているのに気付いた。  ノートを破いたもののようだ。  紙には、『佐藤進一郎へ』と書かれている。  その筆跡は、冬多のものではなく、シゼンのものだった。  進一郎に緊張が走る。  少し震える手で、その紙を手に取り、裏返すと、そこにはシゼンからの言葉がつづられていた。 『オレは完全に消えたわけじゃない。もし、あんたが冬多を裏切ったり、悲しませたりしたら、絶対に許さない。今度こそ冬多はオレがもらう』 「……シゼン……」  胸が切なく痛んだ。 「約束するよ……。絶対に冬多を悲しませたりなんかしないから……。いつまでも傍にいるから……」  進一郎は誓いの言葉を呟いた。  冬多の中にひそかに存在しているのであろう、シゼンの人格へ届くように――。  

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