93 / 94
第93話 伝言
その日、六時間目の授業が自習になったので、進一郎は一時間早く病院へ着くことができた。
個室のドアをノックしたが、返事がないので、そっとドアを横に滑らせて中へ入ると、冬多はぐっすりと眠っていた。
外は冬の風が日ごとに冷たさを増しているが、病院の中はいつも適度な温度に保たれているし、病室の大きな窓からは午後の日差しがたっぷりと注いでいる。つい眠り込んでしまっても無理はない。
進一郎は冬多を起こさないように、部屋の隅に置かれた椅子を持ってきて、彼の傍に座った。
そのとき、ベッドサイドにあるテーブルに紙が一枚置かれているのに気付いた。
ノートを破いたもののようだ。
紙には、『佐藤進一郎へ』と書かれている。
その筆跡は、冬多のものではなく、シゼンのものだった。
進一郎に緊張が走る。
少し震える手で、その紙を手に取り、裏返すと、そこにはシゼンからの言葉がつづられていた。
『オレは完全に消えたわけじゃない。もし、あんたが冬多を裏切ったり、悲しませたりしたら、絶対に許さない。今度こそ冬多はオレがもらう』
「……シゼン……」
胸が切なく痛んだ。
「約束するよ……。絶対に冬多を悲しませたりなんかしないから……。いつまでも傍にいるから……」
進一郎は誓いの言葉を呟いた。
冬多の中にひそかに存在しているのであろう、シゼンの人格へ届くように――。
ともだちにシェアしよう!