4 / 26

第4話

夜中に喉が渇いて目が覚めた。人貴は起き上がって廊下へ出、水を飲んで来ようとあくびしながら台所に向かった。庭へ続く引き戸のガラス越し、植え込みの木々の上にぽっかりと丸い月が浮かんでいる。 都内にあるネオンに囲まれた自分の寮からは、こんなに明るく月が見えることはない。そう思いながら人貴は暫し立ち止まって月に見惚れた――兄の満ちるの名の由来は、満月の晩に産まれたからだと昔聞いた。それだから、人貴は月が――特に満月が好きだった。銀白色に輝く月の光は――兄の繊細な横顔を思い起こさせる。 と、植え込みのかげの暗闇で――何かががさりと動いた気がした。思わず目を凝らす。だが真っ暗で――何も見えない。 胸騒ぎがして、人貴はガラス戸の鍵を急いで外した。――普段はこの大きな家に兄一人しかいない。物取りにでも狙われていたら大変な事だ。腕っ節には自信がある。もし侵入者ならとっつかまえてやる。そう思って人貴は引き戸を開けて庭へ下り、植え込みに数歩近付いた。すると突然――すぐ目の前の暗闇から、真っ黒で巨大な鳥が辺りに羽音を響かせて飛び立った。あっという間の事ではっきり目に見えはしなかったのだが、柔らかい羽先と、それに続いて鋭い鉤爪が――鼻先を掠めて行ったように感じた。 いきなりの事に度肝を抜かれて声も出せず、人貴はその場に凍りついた。いったい何だ?今のは?鷲?鷹?しかし……鳥は鳥目で夜は飛べないんじゃないのか?フクロウかなにか、夜行性の鳥だろうか。でもあんなに大きなのは見た事が無い。 人貴は暫く立ちすくんだまま、鳥が飛び去っていった空を唖然と見ていたが、ようやく心臓の鼓動がおさまってきたので家の中へ戻ろうと振り返った。すると廊下の、開けっぱなしだったガラス戸の前に――背の高い男が立っている。 それに気づいた瞬間――人貴は覚えずぎくりとした。月明かりの中に浮かび上がったその人物の両の瞳が――まるで獲物を狙う肉食獣のそれのように、鋭い光を放って輝いているように見えたからだった。

ともだちにシェアしよう!