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第2話 こどもの呼び方

 いつものように、うちに寄った瀬戸と遊んでいるときだった。 「ところでさ、いつまでこの呼び方続けるの?」 「変える? 今更めんどくね?」  俺のゲームのプレイヤー名は『ま』、瀬戸のプレイヤー名は『せ』。すべて入力するのが面倒で、俺が適当に頭文字を入れてからは、ずっとこのままだった。 「違う、それじゃない」 「じゃあ何?」  ゲームのローディング画面になり、俺は画面から目を離して隣の瀬戸を見る。瀬戸は、恥ずかしそうに小声で言った。 「僕たちの呼び方。いつまで、苗字なんだよ」 「……なんだ、そんなことか」  改まってそう言われると、こちらまで恥ずかしくなる。 「じゃあ何て呼びたいんだ?」 「下の名前」 「呼んでみ?」  びっくりしたように目を見開くも、瀬戸は言われるがまま、俺の名を呼んだ。 「しげ、はる……?」 「何? (しゅう)」 「……何でもないよ、重晴(しげはる)」  少し長かったローディング画面が切り替わり、対戦画面になった。  俺はいつものようにプレイする。対する修は、いつもよりミスが多い。それを逃さず、俺は攻撃を仕掛ける。俺の勝ち。まあ、俺が勝つのはいつものことだったが。 「修、もうそろそろ帰る時間?」  呼びなれない名前は、お別れの時間にもなると、多少は慣れてきていた。 「そうだね、そろそろ帰ろうかな」 「また来いよ」 「うん」  次に修がうちに来たときのこと。初めに名前を設定する際、さりげなく下の名前で登録した。  前回同様、頭文字にしようとしたが、それでは二人とも『し』になってしまう。そこで、下の名前をフルで入力した。『しげはる』と『しゅう』。文字で見るのは初めてだった。  俺たちはそれに関して言葉は交わさなかった。しかし、気恥ずかしい気持ちは修も同じだと、隣でぎこちなく座る修から感じられた。 「……今日は、重晴に負けないから」 「おう、できるもんならやってみ?」  そうして、僕らはゲームに没頭したのだった。

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