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第3話 こどもの勉強 -確率-

 放課後、俺の家。  自室の中央に置かれた小さなテーブルの上には、問題集とノートが二組置かれている。  サインペンの太い方で、「前田重晴」と雑に書かれたノート。その向かいには、細めのペンで「瀬戸修」と書かれたノート。  二人して、問題集を開きながら言葉を交わす。 「で、今日は何ページ残ってるんだ?」 「んー、2ページ」 「僕は最後の大問4だけ」  今日は授業中に解いた問題の残りと続きが宿題になっていた。同じクラスで、同じ授業を受けているはずなのに、どうしてこうも差が出ているんだろう。 「修って、ほんと計算早いよな」 「無駄口叩いてないで、進めた方がいいんじゃない?」  眼鏡のブリッジに軽く触れ、ちらりとこちらと見たと思えば、修はすぐにノートに視線を落とす。 「……真面目モードかよ」  やる気出ないな。そう思いつつ、渋々問題を解き始める。  確率。脳が拒否してる。『同様に確からしい』? よくわかんない言い回ししないでくれ。  ふと、目の前の修に目を遣る。俺が修と出会って、こうして同じ学校に通って、同じクラスで、尚且つ付き合って……って、どんな確率だったんだろう。 「修。人間って何人いるの?」 「世界人口? 忘れた……77億だっけ?」 「じゃあ、77億分の1かな」 「え、そんな問題あった?」  身を乗り出し、俺の開いたページを覗いてくる修。 「違うよ、この世で俺と修が付き合う確率の話」 「77億分の1なんて単純な話じゃない気が……ていうか、僕もう終わるよ」  座り直した修が赤ペンで丸を付け始めれば、それもすぐに終わってしまった。 「はい、終わり。先にゲームしてていい?」 「早っ……いいけど、俺まだまだかかるよ」 「いいよ、一人で練習してる」  いつも俺にゲームで負けるからか、それとも修の性格故か、練習なんて言葉を口にする。そんなに負けるのが悔しいのか。 「わざわざ練習なんてダルいじゃん。加減してやるから、実戦で練習したら?」  それでもたぶん俺は楽しい。だって、俺は修と遊べるだけでいいから。 「嫌だ、手抜かれるとかむかつく」  ゲームのスイッチを入れて振り返る修が、むっとした表情で俺を見る。  さっさと宿題を終えてしまおう。そう思うのに、どうしても『確率』のことばかり考えてしまう。  この国に生まれる確率、人間に生まれる確率、この地球の誕生の確率、宇宙の誕生の確率――きっと、何分の1なんて言葉では表せない確率なんだ。  俺はノートを閉じた。ゲームに苦戦する修を、後ろから抱き締める。 「なっ、何だよ……あー、負けたじゃん!」 「宿題、終わった」 「嘘だ、あの量まだ終わってないだろ」 「バレたか」  こんなやりとりも、きっと確率じゃ表せないんだろうな。

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