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第10話
門倉は泣きながら震える綾人の服を整えると、見た目通りの軽い体をヒョイっと横抱きに抱えた。
嫌がっていたけど、どうやら腰が抜けて立てないらしく、綾人は観念して顔を伏せると大人しく門倉の腕の中で身を任せた。
門倉は寮の自分の部屋へ向かう途中、親友であり、幼馴染みの九流 猛(くりゅう たける)と遭遇する。
「こら!門倉、てめぇサボんなっ!!」
出会い頭、不機嫌な声で怒鳴ってくる幼馴染みに門倉はへらへら笑って自分を弁護した。
「サボってないよ。あっ、ごめん。荷台放置したまんまだ。二階の渡り廊下にあるからお願いしていい?」
「ふざけんな、ボケ。俺も今から用事があんだよ」
「そこをなんとか頼むよ!借りは返すからさ」
ウインクして頼んでくる門倉に九流は溜息を漏らすと、親友の腕の中の綾人へ視線を落とす。
「なんだ、そいつ?」
「俺の恋人」
即答してくる門倉にアホかとまともに取り合うこともせず、九流は門倉が放置した荷台を回収しに足を向けた。
その後ろ姿にありがとうとお礼を言うと、予定通りそのまま門倉は部屋へと戻っていった。
「ここ、何処!?僕、自分の部屋へ戻ります!」
門倉の部屋へ抱っこされたまま中へ連れ込まれた綾人は門倉の腕の中で暴れた。
「危ないから!」
本気で落としそうにになって少し声を荒げると、綾人は怯えたように体を竦めて静かになる。
「よいっしょ!」
キャラメル色の革張りのソファーに壊れ物のようにそっと座らせた途端、綾人は即座に立ち上がった。
「さ、さようなら」
門倉を避けるようにソファーを盾に遠回りしながら震える足で扉を目指す綾人に溜息を吐いて後ろを追いかける。
「こらこら、待て待て」
早足で追いつくと、首根っこを掴んで再びソファーへと連れ戻す。
「か、帰してください!!」
警戒した子猫のようにフーフー言いながら睨みつけてくる綾人に門倉は可愛いなと不謹慎にも笑ってしまった。
「何、笑ってんの!信じられない!この、強姦魔っ!変態っ!ホモっ!!死ね!!!」
大声で罵倒してくる綾人を無視し、冷蔵庫から冷たいお茶のペットボトルを取り出すと、苦笑しながらそれを渡して肩を竦めた。
「悪かったって!処女って思わなかったんだよ。今度は優しくするから、怒んないで」
「今度なんてあるかっ!キモいんだよっ!男相手に頭おかしいんじゃないのっ!?皆んな、気持ち悪い!そんなにヤリたいなら風俗でも行けばいいのに!ちゃんと女の子相手しろよ!なんならお金出すから!」
襲われたことに怒り心頭な綾人はポケットから財布を取り出し、数万円の札束を門倉目掛けて投げつけた。
そして、目尻に浮かんだ涙を腕で乱暴に擦ってソファを立ち上がる。
「もう、守ってなんていりません!だから、今後、僕に関わってこないで!!」
そう怒鳴りつけると、綾人は門倉の部屋を飛び出した。
残された門倉はただ呆然と立ち尽くし、呆気に取られる。
生まれて初めて金を投げつけられ罵倒された経験に驚いた。
こんなに自分が謝ってるのに機嫌を直さない人間も綾人が初めてで新鮮だ。
何より・・・
見惚れた
あの、気位の高さとアンバランスな儚い精神力
弱いのかと思えば強くて
素直かと思えば強情で・・・
「いいね・・・」
ククっと喉の奥で笑って門倉はドサッとソファへ身を沈めた。
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