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第11話

「門倉・・・。携帯で遊んでないで、仕事しろ!しばくぞっ!!」 椅子をクルクル回し、ご機嫌にニヤニヤ笑って携帯電話をずっと見つめる生徒会長の門倉に生徒会役員一同、仕事をしてくれと心の中で叫んでいた。それを副会長である門倉の幼馴染みであり、親友の九流が書類を投げ付けて怒鳴った。 「あ〜。サイン溜まってた?すぐ、書くよ〜」 投げ付けられた書類を手に取って、門倉はへらへら笑いながら携帯電話をしまう。 そして、机の上へ積み上げられた書類へ目を走らせながら万年筆で流暢な文字でサインをしていった。 日が落ちて、一人、また一人と仕事を終えて役員達が帰って行き、生徒会室には会長の門倉と副会長の九流だけが残った。 残された山積みの仕事を黙々と切りがいいところまで仕上げると門倉は万年筆を放り投げて、背筋を伸ばしながらストレッチをする。 「あー!疲れたっ!!今日はここまでにしようか・・・」 首をコキコキ鳴らして言うと、九流はこめかみを押さえて頷いた。 帰り支度をしているとき、九流がふと思い出したように口を開く。 「そういや、一年の間で売春行為をしてるって奴がいるらしいが知ってるか?」 「ああ〜。なんか、意見箱に入ってたね〜。でも、需要と供給が成り立ってんならいいんじゃないの?」 生徒会長とは思えない発言に九流は呆れたが、門倉はニヤリと笑って幼馴染みとの距離を詰めた。 「そんなことより、俺、一目惚れ体験しちゃったんだけど!」 嬉々として恋の相談をしてくる門倉に九流は目を丸くした。 「一目惚れ?」 「そう!一目惚れ!!もう、びっくりするぐらい可愛くてさ!心臓がやっばいぐらい鳴るんだよ!耳元でガンガンするぐらい!」 「・・・それ、耳鳴りじゃねーの?」 最近、生徒会の仕事に追われてるから錯覚を犯してるんじゃないのかと、疑いの目を向けてくる九流に門倉は人差し指を左右へ振った。 「ぶっちゃけ、俺もそれを疑ったんだけど、もう会いたくて、会いたくて、恋しくて、恋しくて堪んないんだよね〜」 ニヤけた顔で恥かしげもなく心情を吐露する親友に九流は純粋に驚いた。 門倉といえば、この上流社会ではかなりの遊び人で名が通っている。 泣かされた女は数知れず、手練手管の女タラしなのだ。 恋人を未だかつて作ったこともなければ、恋をしようともしてこなかった。 恋とはただの思い込みから始まり、一時のまやかしでテンションが上がるただの時間と労力と経験の無駄遣いだとまで豪語していた。 そんな男が恋をしたと笑っている。 思い込みを起こして、テンション高くなる姿にどんな時間と労力と経験の無駄遣いをするのか少し気になった。 「なんて女だ?俺、知ってるか?」 どこの令嬢か興味が惹かれた。上流階級ならば名前を聞けば分かるかもしれないと九流が尋ねると、門倉は満面の笑顔で度肝を抜く言葉を告げてきた。 「ここの新入生、1年A組。白木 綾人。俺の恋人になる子だから苛められてたら助けてやってね!」

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