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第21話
「ゲェッ!!!」
寮で夕食をとるため食堂へ行くと入り口にはにこやかな顔で立つ、この学園の生徒会長、門倉が立っていた。
寮長ということもあり、朝夕のどちらかは不慣れな一年生を心配して監督にくる門倉は何はともあれ、生徒に大人気だった。
目を奪うような美貌の容姿で微笑まれれば、鼻血を出してぶっ倒れる者もいる。
彼に話しかけられたらその日、一日は幸せは約束されるほど有頂天にもなるとよく同級生達が騒いでいるのを綾人はよく耳にしていた。
しかし、そんな思いなど一切持ち合わせない綾人からすると門倉はただの変態で、関わり合いになりたくない人種の一人だ。
門倉の姿を見るなり、逃げようと回れ右をした時、あの軽快な声が自分の名を呼んだ。
「綾ちゃん」
見つかったかと、嫌そうに振り返ると門倉は楽しそうに笑って手招きをしてきた。
「一緒にご飯、食べよう」
「はぁ?食べるわけないじゃん」
「なに、そんなにツンツンしてるわけ?仲良くしようよ」
「仲良くする相手は自分で決める主義なんです。僕、親衛隊作ったから貴方に守って貰わなくても本当に大丈夫なんで、もう関わらないで下さい」
フンッと顔を背けて自分からサクサク遠ざかる綾人に門倉はふむっと、溜息を吐いてその姿を見送った。
ズカズカと食堂へ入ると、ブッフェタイプの夕食に綾人はフランスパンとクリームシチュー、そして、色とりどりの野菜に大好きなイチゴを5粒お皿に盛って席に座った。
その瞬間、バタバタバタっと複数の男達に前後左右と囲まれる。
「な、何!!?」
びっくりして不安な顔を上げると、本日就任した親衛隊の5人が顔を赤くして綾人の周りを固めた。
「白木、大丈夫か?」
「門倉先輩に何か言われた?」
「困ったことがあったら言えよ!?」
自分へ取り入ろうとする輩に内心ウンザリするも、綾人は変に刺激しないように笑顔を作る。
「ありがとう。皆んながいるから、安心だよ」
人が好む笑顔で対応してやると、男達はその顔にデレデレ表情を崩して何度も頷いた。
なんだ、結構チョロいかも・・・
上手に甘えて距離を取り、卒業までなんとか貞操を守ろうと綾人は目論む。
普通、好意ある相手に頼まれたら無下にはしないもんね
自分の正論を相手に普通のように求めて納得してしまった天使は一人無邪気に大好きなイチゴをパクっと頬張った。
その愛らしい姿に性欲真っ盛りの黒い感情に支配される男達が自分を囲っているとも知らないで・・・。
それを少し離れた場所で呆れたように門倉は見つめていた。
「あの能天気バカ」
ぽつりと呟く暴言は誰に聞こえるわけでもなく、囁かれるものだった。
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