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第22話
翌日、朝食を終え、学校へ向かうものの自分の周りを鉄壁な壁で守る親衛隊のクラスメイト達に綾人は引き攣る笑顔を作り続けていた。
綾人本人から側にいていいと言われたことに遠慮をなくした5人は常に天使の側を付き纏う。
そして、飽きもせず繰り広げられる自分達の趣味やら好みを永遠と楽しげに自己満足さながら語る男達に何の面白味も感じず綾人は時々、小さな溜息を吐いていた。
校舎へ着くと何処まで付いてくるのか嫌気がさしてきた時、下駄箱の扉を開けた途端、ボロボロと大量の手紙が下駄箱の中から落ちてきた。
「・・・・・」
そろそろこういったアプローチも始まるであろうと予測していた綾人はラブレターを嫌そうに見下ろす。
「うわっ!俺の白木に気持ち悪りぃ奴らだな」
「はぁ?お前のじゃなくて俺のなんだよ。なっ!白木?」
5人の中、気の強そうな二人がラブレターを見て彼氏気取りの喧嘩を始めだした。
キモ・・・
ラブレターを贈る奴も、こいつらも頭は正常なのだろうか
白けた目で落ちたラブレターを拾っていると少し離れた場所で自分と同じように下駄箱を開けた瞬間、バラバラっと幾つもの手紙が舞い落ちるのを綾人は息を呑んで見上げた。
その人物は・・・
西條 ざくろ
新学期、同じクラスになり挨拶をしたクラスメイトだった。
基本的に人の顔も名前も覚えない綾人だが、ざくろの異常なまでの美しさに否応なしに頭がインプットした。
今日も相変わらず綺麗で見惚れてしまう。
そんな綾人の視線に気付いたざくろはしゃがんでラブレターを拾いながら綾人に挨拶をしてきた。
「おはよう」
「・・・おはよう」
にこっと笑って挨拶を返すとざくろは綾人の分のラブレターを見て笑った。
「俺の倍はあるんじゃない?凄いね」
首を少し傾げて言われ、綾人は恥ずかしさにカァっと顔を赤くなるのを感じる。
こんなの貰って憂鬱だったが、同じ様な目に遭っている仲間を見つけ、心なし安心感と仲間意識が芽生えた。
「こ、こういうの困るよね」
ラブレターを手に抱えて近くのゴミ箱へ全て捨てる綾人にざくろはそれを黙って見つめていた。
綾人がゴミ箱の前を開けて、捨てる場所を譲るとざくろは淡く微笑んで手の中のラブレターを鞄の中へしまう。
「俺にとったら分かりやすいアプローチで助かるけどね」
意味深に告げられた言葉の意味が分からなかったが、自分と違い、ラブレターをちゃんと持ち帰るざくろの優しい姿勢に綾人は凄いなと息を吐いた。
それから、地獄が始まった。
教室へ行って、授業を受けている時以外は常に誰かが自分の側をぴったりマークしてはさり気なく体をあちこち触れられてげんなりしていた。
これはヤバい・・・
ストレスすっごい感じるな・・・
今は昼休みで実はトイレへ行きたいのだが、自分の周りを決して離れない親衛隊に綾人はトイレにまでも付いてきそうな人達にどうしようかずっと考えていた。
自分と同じように複数の人間から好意を持たれるざくろへちらっと視線を向けるも、何故か彼の周りには誰一人として人が寄り付いてない。
それが羨ましくて、綾人のざくろへ馳せる興味心が膨らんでいった。
そんな時、ざくろが席から立ち上がると教室内の生徒の殆どの者がざくろへ視線を向けた。
ざくろを決していない存在としているのではなく、皆、彼の美貌にただ後れを取っているのだろう。
毅然とした美しい態度で教室を出て行くその姿に綾人は大きな音を立てて席を立つ。
すると、わっとクラス中が湧いて綾人に何処へ行くのかうるさいぐらい詮索してきた。
それが鬱陶しくて、苛立ったように少し大きな声で叫んでしまった。
「うるさいっ!西條君と話したいから、放っておいてっ!!」
ざくろの名前を出した途端、周りは押し黙り綾人に道を開く。
その事実に驚きながら、綾人はざくろにますます興味を惹かれた。
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