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第23話
「西條君!」
クラスメイト達の身の引きように感激しながらその一瞬の隙をついて綾人は一人で教室を出た。
そして、前を歩くざくろへ話しかける。
「白木君?」
名前を呼ばれて振り返ると、ざくろは自分を追いかけてきた綾人を真っ直ぐ見る。
綺麗な人を惑わせるざくろの漆黒の瞳が綾人を虜にした。
恐らく、他の人はこの瞳が怖いんだ
呑み込まれそうになる自覚があるから西條 ざくろへ気軽に近寄れないのだと綾人は納得した。
「どうかした?」
無表情で尋ねてくるざくろに少し緊張を走らせるものの綾人は拳を握り締めて頭を下げた。
「と、友達になって下さいっ!!!」
廊下にいた人達全員の視線を掻き集めた衝撃的なシーンにざくろはうっすらと頬を赤らめる。
「・・・ありがとう。嬉しいよ」
肯定とも否定とも付かない言葉だったが綾人はとりあえず迷惑がられていない事に安堵した。
「あの、これからは体育とかで何かペアを組む時は僕としない?」
「白木君は人気者なのに、俺なんかと一緒に組むの嫌じゃないの?」
首を傾げて聞いてくるざくろに綾人はざくろの手を握り締めて首を縦に振った。
「西條・・・・、ざくろ君がいいの!!!」
害もなければ、もしかしたら共通の悩みを抱える仲間かもしれないと、胸を膨らませて詰め寄るとざくろは優しく笑って頷いた。
ざくろと別れてずっと我慢していた念願のトイレへも行けて綾人はご満悦だった。
教室へ戻るとまたひっつき虫のような輩がいると思うと嫌で当てもなくプラプラ歩く。
今後は何かの行事の度にざくろと組めると思うだけで綾人は心を安心感と幸福感で占めていた。
ざくろ君と友達になれた〜
絶対的無害の要素に惚れてしまいそうだ
「あ!番号聞くの忘れた!!!」
ふと、ブレザーのポケットに入れていた携帯電話を握り締めた時に自分の失態に気づいて綾人はガックリと肩を落とした。
そして、携帯電話をポケットから取り出して曲がり角を曲がった時、誰かとぶつかってしまう。
「っ!」
「キャアっ!」
女の子のような悲鳴を上げて地面へ尻餅をつくと、ぶつかった相手を見上げた瞬間、綾人は心底嫌そう声を漏らした。
「うわぁ・・・」
最悪だと、顔を歪めて固まる綾人を見下ろすのは、最近何かと出会う確率の高い門倉だった。
「あれ、綾?大丈夫?」
馴れ馴れしくも相変わらず自分へ愛称を付けて呼ぶ男にイラっとする。手を伸ばしてくる門倉に綾人は顔を背けて自力で立ち上がった。
「誰、こいつ?」
門倉の隣に立つ、黒髪の少し強面な迫力のあるイケメンに視線を向けられて綾人はビクっと体を竦ませた。
「俺の恋人」
あはっと笑って自分の肩を抱いてくる門倉の腕からすり抜け、睨みつける。
「ただの変態加害者と被害者です!」
「・・・」
黒髪の男は二人の意見の食い違いに首を傾げるものの、綾人の容姿と前から聞かされていた門倉の恋愛事情にピンときた。
「これが、お前の?」
「そう。俺の!」
綾人を一瞥しながら短く会話する二人に嫌悪感を抱く。
「綾ちゃん。こいつ、猛ね。九流 猛。俺の幼馴染みで、生徒会副会長してるから俺が不在のときはこいつに頼って」
「・・・どうも」
変態の友人はどうせ変態だろうと、警戒心を見せながら小さく会釈する綾人を九流はふんっと気の無い様子で顔を逸らした。
「相変わらず、猛は堅物だね〜。・・・でもね!これが結構いいもんだよ。見た目もその辺の女よりいいし。体の相性も悪くなさそうだしね。猛も一度は試したら?あっ!綾は駄目だよ。俺の恋人だから」
「恋人じゃない!変態加害者と被害者です!!」
即座に否定を口にする綾人へ門倉はぶつかった時に落ちてしまった綾人の携帯電話を拾い上げ、手渡した。
「今日辺り、お前から恋人にして下さいって泣きついてくると思うけど?」
意味深に笑う門倉に不愉快だと眉を寄せて文句を言おうと口を開いたとき、休み時間が終わりを告げるチャイムの音が響き渡った。
それを機に綾人はこれ以上、関わりたいくないと教室へと足早に帰っていった。
その後ろ姿を見つめながら、隣にいた門倉の幼馴染みであり親友の九流 猛が聞く。
「何?前に言ってたのマジなわけ?」
その問いに門倉は掌で口元を覆ってニヤける顔を隠しながら幼馴染みに本音を吐露した。
「下半身、すげぇ疼くっ・・・」
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