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第43話
「え?」
まさかの綾人からの告白に門倉の動きが止まった。
切羽詰まった感を醸し出す綾人は断らないでと、濡れた瞳で見上げてくる。
その顔があまりにも可愛くて、門倉は柄にもなくカァーっと顔を赤く染める。
自分の体温が上昇するのを感じて、それを悟られたくなくて口元を覆って顔を反らした。
「まぁ・・・、うん。よろしく・・・」
素っ気ない返事をする門倉ではあったが、内心飛び上がりそうなぐらい喜んでいた。
とりあえず、肯定の言葉を貰えたことに綾人は胸を撫で下ろすと、そっと後ろを振り返った。
「あ、あの・・・、僕これで門倉先輩とお付き合いしたんで、こういうこと困ります!」
大きな声で牽制をかける綾人に悔しそうに奥歯を噛み締める者もいれば、悲しそうに顔を沈ませる者もいた。
黙って俯いていると、渋々その場から一同去っていき、綾人は初めて肩の力を抜いた。
ぽつんっとその場に二人残され、最初に行動を取ったのは門倉だった。
沈黙を打破するべく、ゴホンッと大きく咳払いをすると、綾人は我に返ったように振り返った。
「あ!さっきは助けて貰ってありがとうございます!話を合わせてくれて助かりました!!」
ぺこりと頭を下げてくる綾人に目が点になる。
「・・・・・え?」
「え?だから・・・、付き合うっていうの。話を合わせてくれて助かりました」
ふわりと微笑む綾人に目が奪われた。
喜んだ心になかなかのダメージデカめの衝撃発言を浴びされてるにも関わらず、皮肉にもずっと見たいと願っていた笑顔をこんな形で見せられて胸がざわざわとした。
役に立てて嬉しい・・・
嬉しけど・・・
嬉しいけれどもっ!!!
「絶対、嫌だっ!!!」
門倉の口から出た言葉は許さないと綾人を責めるものだった。
「へ?」
マヌケな声を出す綾人の両肩を掴んで門倉は華奢な体を前後へ揺さぶった。
「綾ちゃん、俺に交際申し込んだんだから責任持って付き合って!嘘でしたとか、マジあり得ないから!!俺はそんなしょーもない人助けはしない!したくない!!絶対嫌だっ!!!」
大声で喚いて力説する門倉に綾人はガクガク揺さぶられて目を回す。
「わ、分かりました・・・、んじゃ、付き合いましょう」
クラクラする頭でそれでいいだろう?と、聞くと門倉の顔がぱぁっと笑顔になる。
綾人もその表情ににっこり微笑んで地獄の提案をした。
「で?いつ別れます?1分後?一時間後?門倉先輩の要望に応えますよ」
「・・・・・」
見惚れんばかりの天使の笑顔を門倉はこのとき、初めてぶん殴りたいと思えた。
天使?
こいつが?
悪魔の間違いじゃねーのか?
怒りで固定された笑顔が引き攣る。
人の好意を踏んでの仕打ちかと、可愛さ余って憎さ百倍だと、紅茶色の瞳が鈍く輝かせ、吐き捨てるようにその期限を口にした。
「上等だ。俺が卒業するまでの2年間、きっちり付き合ってもらいましょ!」
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