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第44話

「な、何、怒ってるんですか?」 不穏な空気を醸し出す門倉に綾人が聞くと、門倉はフンッと鼻を鳴らし、腕を組んで不遜な声で告げた。 「別にお互いの利益に繋がるし、いいアイデアだと思うよ。綾は俺と付き合っていたら間違いなく今よりセクハラは減る。寧ろ、俺が守ってあげるから無くすことも可能だと思うけど」 「・・・それは」 とっても有難い。と、ゴクリと喉を鳴らす綾人に門倉が指を三本立てた。 「その代わり、俺から条件が三つある。条件その一。毎週、金曜と土曜は恋人として俺の部屋へ泊まりに来ること。条件その二。お互い干渉と束縛はしないこと。ただし、貞操はそこそこ守り合おう。浮気は上手にね。そして、条件その三。俺が卒業したら、きっぱり別れてさよならすること。互いの人生の為にも後腐れなくいよう?その条件を満たせば、俺が卒業した綾の在校一年間も俺の出来る限りの範囲で守ると誓うよ」 不敵に微笑む王子からの提案は驚くほど殺伐としていた。 世の中のカップルもこんな感じで付き合っているものなのだろうか? 条件を科せられた「恋人」。 それは、互いの想いが交差しないからこそ発生するのかもしれない。 目を瞬かせる綾人はキョトンとしながら門倉を見つめた。 「高校卒業までの限定・・・」 ぽつんっと呟くと、門倉が大きく頷いた。 一般的には「恋人」という単語を使うにはとても切なくて悲しいものだったが、綾人のなかではメリットを産む単語へと徐々に切り替わっていった。 ある意味、金曜と土曜日のみ恋人ごっこをしていれば自分の学生生活は均衡を保てるのだ。 門倉の名前の威力は実証済み。 相手が自分へ何を求めているのかいまいち分からないが、自分は確実に門倉の力を欲しることは明白だった。 「分かりました。じゃあ、門倉先輩が卒業するまでの2年間、宜しくお願いします」 頭を深々と下げ、綾人は己の決意を示すと、門倉は笑顔で柔らかい蜂蜜色の髪をそっと撫でた。 「こちらこそ、よろしく」 放課後、綾人が帰り支度をしていたらクラスメイト兼親衛隊の皆んなが寮へ戻ったらゲームをしようと誘ってきた。 場所はもちろん、談話室。 今日は金曜日。 昼間に門倉へ指定された恋人ごっこの日だ。 初日早々、無下にすることも出来ず予定があると断ろうとしたとき、携帯電話にメールが入る。 相手は今まさに考えていた門倉からだった。 内容は本日のこと。 『今日は生徒会あるから先に帰ってて。俺の部屋に入って待っててもいいからね』 フレンドリーなメール内容に綾人の顔が笑みになる。昼間に門倉から渡された合鍵をブレザーのポケットに手を入れて確認した。 門倉の帰宅が遅いなら別に直ぐ帰宅する必要はなくなった。それなら、自由時間を楽しもうかと思い始める。 約2年間、守られることは決まったが門倉が卒業してからの一年間はある意味、自力で自身を守らねばならない。その基盤を今は作るべきだと闘志が燃えた。 その為には、やはりこの親衛隊を懐柔すること。 自分の我儘をきっちりきかせ、自分と相手の立場を弁えさせる必要があるのだ。 そう思い立つなり、綾人は親衛隊へ向き直るとボヤくように口を開いた。 「僕、ゲーム持ってないんだよね・・・」 「そんなん、俺の貸してやるよ!」 談話室へ来てくれるならと嬉々として複数の人間が手を挙げる。 「っていうか、根本的にゲームがあんまり好きじゃないんだ」 「じゃあ、違う遊びしよう!白木のしたいことでいいからさ!」 来てくれるなら、もうなんでも良いと身を乗り出す男たちに綾人は人差し指を口元に添え、視線を宙へ彷徨わせながら呟いた。 「う〜ん。イチゴのアイス食べるつもりだったからやっぱり、やめ・・・」 「はいはいはーい!!イチゴのアイス買う!奢る!その他のお菓子も好きなだけ買ったげるから、ね!ね!来てよ!白木が居なきゃ盛り下がるよな!?」 リーダーの坂田が目を爛々とさせ、綾人の言葉を遮るように仲間に呼びかけると、周りの男達はぶんぶん首を縦に振った。 ぶっちゃけ、本当は参加するしないはどうでもよかったのだが、親衛隊との距離を良い意味で縮める大切な時間だと綾人は自分を言い聞かせ、笑顔を見せた。 「それじゃあ、お言葉に甘えて行こうかな」

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