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第52話

「綾?」 シャワーを浴び終えて戻ってきた門倉はベッドに綾人の姿を確認出来なくて不穏な声を上げた。 部屋中、見回しても綾人の姿はない。 それに加えて、床に落ちていた服も消えていた。 導き出された答えは 「逃げた・・・」 イラっとしながら、まだ濡れる前髪を掻き上げる。 ソファへ座って己を諌めるように深呼吸した。 面倒くさいな・・・ もう、捨てようか・・・ 一から教えるのも悪くはないけど、こんな風に逃げ出されたら教え甲斐もない。 それに、昨日今日と満足いくまで抱きもした。 もう、いいかな・・・ 手に入らないならもう要らないと瞳を閉じ、首にかけていたタオルで髪を拭く。 静かな部屋で無心になるよう心掛けるが、瞳を閉じると瞼の裏に綾人が映った。 美しく笑う天使の顔 涙を浮かべる泣きそうな顔 助けを求めるような辛そうな顔 赤く恥じらう愛らしい顔 そして、乱れ狂う妖艶な自分だけが知る綾人 なにより、一番忘れられないのは・・・ 『ぼ、僕と付き合って!門倉先輩っ!!』 そう叫んだ、あの顔を真っ赤に染めて告白してきた綾人だった。 呼吸が止まるほどの衝撃を受けた。 胸が張り詰めて苦しかった。 それがただのその場限りの嘘だとわかったあとも腹立つことに喜びは掻き消されなかった。 くそ・・・、好きなんだな・・・ この俺が追いかけるのか? あんなガキを? 恋はしない。 時間と労力とその時の全てを無駄にする。 本当にそう思っていたし、今でも思っている。 だから、これ以上あいつに囚われたくない。 たった二年だ いや、飽き性の自分のことだ 二年も続くか分からない だけど・・・ ずっと心臓がうるさいんだ・・・ あいつが他の奴に笑いかけるとイライラする 誰かに泣かされてると思うと助けたやりたくなる 名前を呼んで欲しい あの綺麗に澄んだ蜂蜜色の瞳に自分だけを映して微笑んで欲しかった 「はぁーーー!!くっそぉ!ウゼェなっ!!!」 いつもの自分らしからぬ乱暴で汚い口調を吐き捨てると、側に置いていた服に袖を通した。 そして、乱雑にまだ乾ききってない髪を掻き回すと観念したように息を吐いて立ち上がり、綾人を探しに部屋を出ていった。

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