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第53話

「門倉!」 よく知る声に名前を呼ばれ、門倉は振り返った。 そこには親友であり、幼馴染みの九流 猛が立っていた。 その隣には否応無しに目を惹く美少年が一人、九流の隣に立つ。 「・・・こんにちは」 ぺこりと小さく頭を下げて挨拶する男に何処と無く見覚えを感じた。が、思い出すのも面倒だし、今はそれどころではない。 「猛、俺の天使見なかった?」 首を傾げて極力いつも通りの自分を装いながら笑顔を向けると、その質問に九流ではなく隣に立つ男が答えた。 「天使?天使って白木君ですか?」 「そう。白木 綾人!」 知っているのかと鬼気迫る感を出して詰め寄ると、自分と男の間に九流が割って入る。 「こら!ざくろに絡むな」 嫌そうに顔を歪める幼馴染みに門倉はざくろと呼ばれた男の顔を見た。 西條 ざくろ あぁ・・・、あの噂の・・・・。 前に廊下で会ったな ふと、少し前の出来事を思い出す。 しかし、不可解なことが一つ。 この西條がどうして俺の幼馴染みと行動を共にしているのかが謎だった。 「白木君なら、外出したと思いますよ。クラスの子達が騒いでたから・・・」 そんなことを考えていたら、柔らかな口調で教えてくれるざくろに門倉が眉間に皺を寄せた。 「外出?」 不機嫌な声で繰り返す門倉にざくろがたじろぐと、それを庇うように九流が前に立った。 「凄むな!ってか、なんだよ?喧嘩でもしたのか?」 「・・・別に」 不貞腐れるように顔を反らすと、滅多と見れない門倉のそんな態度に九流が噴き出した。 「アハハハ!お前、逃げられたのか!?あのガキに!?」 「・・・・」 「んで、追いかけてんの!?あの、お前がっ!!?」 不躾にも人差し指で自分を指しては大笑いしてくる幼馴染みに殺意を抱く。 違うと怒号を放ちたいが、悔しいことに何一つ間違いはなくて黙ることしかできなかった。 九流の大笑いにどんどん不機嫌になる門倉を前にざくろが慌てて話題を変えた。 「あ、あの!白木君って言えば、あの岩川先生に目を付けられてるって聞きますけど、大丈夫なんですか!?」 「・・・は?」 綾人の別の話題をと試行錯誤した末、出てきたのがこの話題でざくろは固まった。 が、初めて耳にする話に門倉は食いついた。 「岩川ってあの体育教師の?」 「はい」 「綾が何かあるのか?」 「何かっていうか・・・、俺は見てないんですけど、こないだの授業で岩川先生にセクハラ紛いな授業を受けたって聞いて・・・」 「セクハラ?」 詳しく聞きたいと話を掘っていくと、ざくろは知る限りのことを伝えた。 岩川が綾人に対して人一倍厳しいこと。 自分もだが、岩川の触れてくる手はいつも何処かやらしさを含んで嫌悪感を感じること。 それに対して無知な綾人が被害に遭っているということ。 「この間も、談話室で友達と騒いでいたのを難癖付けられて、一人連行されたって聞きましたよ。白木君、我慢強いから公にしないよういつも黙っちゃうけど、あの容姿だし噂は広がるから・・・」 だけど、所詮噂は噂だとざくろが口をつぐむと、門倉は額を押さえて息を吐いた。 金曜日、浮かない顔をしていたのはこの事かと合点がいく。 岩川と言えば、美少年好きと黒い噂が付き纏う変態教師だった。 同じ学年の見た目がいい知り合いが襲われたのも知っている。 事後、問題にしようとすると教師の権力を振り翳し、やれ内申書に響すぞと脅したり、授業にてネチネチ虐めを強いると聞いた。 実に不快な事実に門倉の眼光が鋭くなる。 しかし、本当に怒りを感じているのは岩川ではなく、綾人にだった。 何故、自分がいるのにそんな事態に陥っていて言わないのかが分からなかった。 信用されていないのだろうか・・・ そう思うと、やるせない気持ちに加えて、プライドも傷付けられた感覚に陥った。 一人、口の中で舌打ちすると門倉は二人に何も言わず背を向けてその場を去っていった。

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