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第57話

「それは・・・、なんていうか・・・・」 悩むな・・・ 綾人から持ちかけられた悩みに速水はダラダラと冷や汗を流した。 内容からして恐らくそれはやっぱりと思っていた性的な問題だった。 小さな時から恵まれた容姿の彼はそういった色恋沙汰には酷い目に遭わされてきていた。 自分が知ってる限りでも結構悲惨なものばかりで、いわば綾人の心を壊してきた理由でもある。 だからこそ、彼は自分のこの美しくも可憐で愛らしい天使と称される容姿を毛嫌いしていた。 そんな綾人が高校はまさかの男子校。 果ては、男子寮に入ると言いだしてきた時にはすこぶる驚いた。 しかし、身寄りがない綾人ならではの苦肉の策だとも思えた。 自分で決めたのなら頑張れと背中を押したのだが、どうやら心配していた事態に陥っているようだ。 この麗しの天使に複数の魔の手が伸びているようだった。 結果、簡単にいうと、多生徒、果ては教師にまで目をつけられ追い掛け回されているが、一人の絶対的権力を持つ男のオモチャに2年間なればそれらは回避できるという内容だ。 だが、問題はその男が怖くて嫌というもの。 言葉を選びつつ、ここまでダイレクトな物言いはしてこなかったが、自分の見解にそう遠くないはずと速水は踏んだ。 「その権力を持ってる人は信用出来るの?」 「・・・・多分。仕事はキチンとこなしてくれると思います」 小さな声で答える綾人に速水はそれならと頷いた。 「僕ならそうだね。その一人の男を上手く扱うように努力をするかな」 「努力?」 「うん。その彼を味方にさえつけたら怖いもの無しだし、安全も確保されるからね」 「その人のこと上手に扱える見込みなかったら?」 「そこまで弱気なら退く。君の心も心配だし」 「・・・・」 「やるもやらないも君次第だよ。ただ、無理は禁物!その二つに囚われすぎてるとも思うし。別の違う打開策を考えるのもまた一つの提案だよ」 沢山の逃げ道を用意し、綾人が楽な方へと誘おうとしたが、晴れぬ表情に速水は苦笑した。 「今日は良かったら泊まっていく?」 少し寮から離れることも提案すると、綾人は小さく首を横へと振った。 「いま逃たらもう戻れないと思うから帰る。・・・先生、ありがとう」 ぺこりと頭を下げると綾人はそっと椅子から立ち上がった。 それを見て、速水は寮まで送ると車のキーを手にした。

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