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第58話
速水と別れ、重い足取りでエントランスへ入るとそこには体育教師の岩川がいた。
急なことに怖くて瞳を反らせて挨拶が遅れたとき、岩川が近くへきて綾人の髪を鷲掴んだ。
「ッ!!」
「貴様!教師を前に挨拶もないのかっ!!」
突然の怒号に、綾人の体が竦む。
「門限ギリギリに帰ってきて、外でどんな悪さをしてたんだ?お前は礼儀も無ければ品もないな!来い!きっちり、躾けてやる!!」
「やっ!」
髪を引っ張られ、何処かへ連れ去ろうとする岩川に綾人が足を踏ん張らせて抵抗をみせたとき、岩川の忌々し気な舌打ちが聞こえた。
「このっ!素直に従え!!」
「っ!!」
もう片方の腕を大きく振り上げられ、風を切る音が聞こえた。
殴られるっと目をキツく閉じ、その衝撃に備えたが、なかなかその衝撃がこなくて、恐る恐る瞳を開く。
すると、そこには機嫌の悪そうな門倉が岩川の振り下ろした腕を掴んで、冷やかな瞳を向けて立っていた。
「か、門倉先輩!!」
「門倉!!」
綾人と岩川の声が被るなか、門倉は鋭利な目を岩川へ向けると、耳元で何かを囁いた。
その瞬間、綾人の髪を掴んでいた手を離し、岩川の顔色がみるみると青ざめていった。
「い、いや!違うっ!!誤解だ!!!」
上擦る声を上げ、後退る教師を一瞥すると岩川は逃げる様にその場を去っていった。
残された綾人は一難去った出来事に胸を撫で下ろした。しかし、次の門倉という難問に新たな緊張感を走らせて身を固くした。
案の定、隣に立つ門倉は凄まじく不機嫌な様子で嫌な汗が流れる。
「何処へ行ってたわけ?金曜、土曜は俺との時間って言ったよね?あと、岩川の件。どうして俺に言わなかったの?俺のことなめてんの?」
静かに、だけど確実に怒りを迸らせる声音で、ある意味怒鳴られるより恐怖を感じると綾人と顔を青くさせる。
「・・・ご、ごめんなさい。その・・・、あの・・」
上手い言い訳が思い付かなくて口籠っていたら、俯く顔を上げさせるように門倉は先ほどの岩川のように髪を鷲掴んで上を向かせてきた。
「お前さ、そんなに酷くされるのが好きなわけ?」
低く暗い声で凄まれ、門倉の恐ろしく整った綺麗な顔に綾人は息を呑んだ。
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