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第59話

強烈な威圧感と共に門倉の部屋へ連れて来られた綾人は借りてこられた猫状態でジッとソファの上で身を固くしていた。 不機嫌な門倉が自分用と綾人用にとコーヒーを淹れてテーブルの上へ置くと、綾人の向かい側へと腰掛ける。 「っで?逃た理由はなに?もちろん、俺が納得いく理由なんだよね?」 顔は笑っているが目は笑ってなくて、恐怖心から綾人は門倉の顔を見ることが出来なかった。 だけど、ずっと沈黙を貫くことも不可能なことは綾人も分かってはいる。 「あ、あの・・・」 「うん」 グッと拳を握り締め、綾人は目をキツく瞑って帰り道、ずっと考え抜いた打開策を口にした。 「ぼ、僕と勝負して下さい!!」 大きな声で提案したとき、いきなり何を言い出すのかと門倉が目を丸くする。 それに対して、綾人は顔を上げて一気に話を詰めた。 「あ、あの、やっぱり僕には門倉先輩のお相手はなかなか手厳しくて!僕も心の準備がなくて!だから、門倉先輩!僕と勝負して、僕が勝ったら今後あんな関係を結ばなくても僕のこと守ってくれませんか!?」 身勝手かつ超絶我儘を口にする綾人に門倉は固まった。 「門倉先輩の力は本当に偉大だって思ってます!皆んな、門倉先輩の名前出すとものすごい勢いで引いていくんです!尊敬してます!だから・・・、出来ればこのままそのお名前貸して下さい!!!」 綾人はソファから地べたに敷かれたアイボリー色のラグへ下りると、土下座をして頼み込んだ。 そんな姿を前に門倉はこめかみを押さえて坦々と整理をしていった。 「・・・つまり、なんだ?昨日、今日と体を重ねて刺激が強すぎたってこと?そんで、こんな関係は無理だから解消したいと。だけど、俺にはこのまま守り続けて欲しいからその部分だけ続行する為に勝負して綾が勝てば俺にいいなりになれってことでいい?」 「・・・・・・はい」 気まずそうに頷く綾人を確認すると、門倉は怒りに笑顔を引き攣らせた。 「ふ・ざ・け・ん・な・よっ!!!」 「・・・・・」 絶対零度の世界へと放たれたかと思うほどの身の毛のよだつ寒気に綾人は固まる。 「俺に何のメリットがあるんだ?お前都合も良いとこだろうが!」 「・・・仰る通りです。すみません」 「だいたい、勝負って言ってるけどお前が負けたらどうすんの?その前に俺に何かしら勝てる分野があるとでも思ってるわけ?」 辛辣な言葉の数々に口を閉ざす綾人ではあったが、呆れたようにため息を吐く門倉の姿にカチンときて声を荒げた。 「あります!僕と人気投票で勝負して下さい!!もし、それで僕が負けたら今後どんな仕打ちも受けるし、絶対逃げないって誓います!!」 その言葉に門倉のテーブルの上のコーヒーへ伸ばした手が止まった。 「・・・本当に?」 売り言葉に買い言葉的な勢いで言ったものの、信じられないぐらいの真面目な声が返ってきて尻込みをしてしまう。 が、引くわけにもいかず・・・ 「も、ちろんです・・・」 ゴクリと喉を鳴らして大きく頷くと、門倉の唇の端が上がった。 「いいね。その条件が本当なら色々と相当不利なことばかりだけど呑んであげてもいいよ」 長い脚を組んでソファの肘掛で頬杖をつき、綾人を楽しげに見下ろす門倉は不敵に笑った。

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