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第60話
「お願い!今度の金曜日の投票、僕に入れて?」
きゅるんっと大きな目を潤ませ、上目遣いで懇願するのは一年A組の天使。白木 綾人だ。
先週の土曜、門倉と本日の月曜日から木曜日までどちらが魅力的かアピールし、金曜日の朝一に全校生徒に投票してもらうこととなった。
週明けの月曜である今から、綾人は親衛隊を筆頭に学園中の男共を誑かしていた。
可愛く擦り寄り、甘えた声でおねだりをしてくる綾人に皆、メロメロ状態だ。
「もちろん、白木を選ぶに決まってるだろ」
「白木が一番だよ!」
「本当!可愛い〜!!」
こくこく頷いて、ベタベタ自分に触れてくる男たちの手を今は我慢っと己に言い聞かせ、綾人は笑顔を保ちながらセクハラに耐えた。
今を耐えれば安全な未来が保証される!
その言葉を胸に綾人は今日から金曜日まで、天使の笑顔を崩すことを決してしなかった。
一方、門倉は・・・
「人気投票って、お前微妙じゃね?」
自習時間、幼馴染みであり親友の九流がニコニコ楽しそうな顔で綾人のクラスの体育の授業を窓から眺めていたとき、口を開いた。
「ん〜。そうだね〜。お馬鹿な子が考えた割にはなかなかいい線いった勝負内容だよね」
本日、一年生は高跳びの授業なのだがどうやら天使は飛べなくてまごまごしていた。
助走をつけてバーの前まで行くのだが、地面を蹴って飛び上がるのが怖いようだ。
「本当、可愛いな・・・」
ふふっと声を出して笑う門倉に九流は頬杖を付いて呆れた声を出す。
「なに?すげぇ、上機嫌だけどいいことあったわけ?」
「んー・・・。まぁね。この勝負に勝てばかなり楽しくなりそうだなぁ〜って」
ひょいっと窓から顔を離して九流へ向き直る門倉は満面の笑顔だった。
「なんだ。勝負捨てたわけではないんだな」
「もちろん!勝よ。どんなことをしてもね」
幾多の女を誑かせた優しくも美しい魅惑の王子は腹に一物もつ黒い感情を決して表に出すことはしない。
再び瞳を窓の外へ向け、門倉は不敵に微笑んだ。
「・・・背中に生えた羽根、へし折って絶対服従させてやる」
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