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第61話
つ、辛い・・・
木曜日の朝、綾人はいつも通りに六時半に起床するもののメンタル部分があまりにも酷すぎて吐き気に襲われていた。
今日までの五日間、人生の中でこれでもかというほどのセクハラに耐えた綾人の精神状態は瀕死寸前だ。
投票券を持っている奴はここぞとばかり綾人に詰め寄り、体を撫で回したり手を握っては自分の体を触らせてこようとする。
キャバ嬢さながらの仕打ちを受け続け、それを拒みきれない今の状況に綾人の心は折れそうだった。
しかし、そんな辛いのも今日まで。
今日1日、もうひと頑張りすれば明日は朝一から投票だ。
今日さえ乗り切ればと綾人は気持ちを奮い立たせ、ベッドから降りた。
「し〜ら〜き〜!」
登校するや下駄箱にて親衛隊達が満面の笑顔で綾人を出迎える。
今週は捨て身覚悟で自ら甘える仕草を見せる綾人に群がる輩が多い為、毎朝親衛隊が綾人をこうして迎えに出てきていた。
有難い反面、既にその気遣いにすら綾人はぐったりだった。
「おはよ・・・」
げっそりする心を隠しきれぬ笑顔を向けたとき、親衛隊リーダーの坂田が綾人の目の前にびらっとピンクのセーラー服を掲げた。
「白木!今日はこれ着よう!!絶対票が集まるから!!!」
やっすいコスプレ服を見せつけられ綾人の目の前がくらりと歪んだ。
「い、いや・・・、女装とかは似合わないから・・・・」
僕、男の子なんで・・・と、断る綾人を他の親衛隊が囲んでる力説をはじめた。
「白木が似合わないわけないじゃん!」
「お前がセーラー服似合わなかったら世の中の人間、全員似合わねーよ!」
「このピンクっつーのが絶対いい味出すんだって!このエロさを漂わせるのがっ!絶対門倉先輩にこれ着たら絶対勝てるから!!」
目の色を変え、浮き足立つ親衛隊に推しに押され綾人は門倉に勝てるというその言葉に負けて、そのピンクのセーラー服を手に取ってしまった。
は、恥ずかしい・・・
昼休み、制服からセーラー服に着替えた綾人を一目見ようと学年問わず、一年A組に人が押し寄せた。
可愛い、可愛いと絶叫するギャラリーに赤い顔で俯く綾人をフォローするべく親衛隊が大きな声で明日の投票の宣伝をしてくれた。
「明日の人気投票!是非、白木 綾人に一票をお願いしまーす!」
うおぉぉおーっと、盛り上がりを気持ち悪いほど見せるその姿に綾人は確かな手応えを感じてはいた。
勝てる
これ、絶対に勝てる!!
席を立ち、恥ずかしさを押し殺して、廊下へ出ると自分を見に来たギャラリーに綾人は人が好む愛らしい天使の笑顔を見せた。
「明日、お願いします」
ぺこんっと、頭を下げる綾人にドカンッと周りが熱気立つ。
そのとき、いつも飄々としてはどこか楽しげな余裕に満ちたあの声が聞こえてきた。
「わー。綾ちゃん、可愛い〜ね!」
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