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第62話

「門倉先輩!!」 嫌な奴に会ったと言わんばかりのあからさまな顔を見せる綾人に門倉は爽やかかつ、涼しげな王子スマイルを崩さなかった。 「ピンクのセーラー服って、なんだかやらしいね〜。でも、純真無垢な天使にはいいアクセントで合ってるかも」 フフッと笑う門倉に綾人は大きな瞳を細めて挑戦的に睨みつけた。 「そんな余裕ぶってるけど、明日の投票、僕勝ちますからね!約束は守ってくださいよ!!」 「もちろん。だけど、俺が勝てば綾ちゃんだってきっちり約束果たしてよ?」 「当たり前です!」 ムキになって言い返すと、ギャラリーを一巡した門倉がニヤリと嫌な笑みを見せた。 「うん。これで証人も出来たし、いい感じ。じゃあ、綾ちゃん頑張って!綾がどれたけ可愛い生き物なのか、精一杯アピールしてね」 そう言うと、門倉はウインクして手をひらひら振りながら退散していった。 その後ろ姿を拳を握りしめ、綾人は奥歯を噛み締める。 ぜっっったいっ、勝つ!!! 心の中で叫ぶと、綾人は一日中そのピンクのセーラー服に身を包み、愛想と色気を存分に振りまいた。 「ふっふっふっふっ・・・。勝つ!僕は今日勝つ!!」 昨夜は興奮からか全く眠れなかった綾人はいつも通り六時半にベッドを降りた。 朝一にて投票が始まる。 自分の知る限り、門倉は自分のように生徒へ媚びたり圧力を掛けたりとする様子はこの一週間見せなかった。 必死に選挙運動をしていたのは綾人のみで、明らかに有利な自分に勝ちレースが見えていて笑みが隠せない。 「これで、高校三年間は安泰だーーー!!」 制服を着て、鏡の前でバンザーイと一人前祝いにカルピスを飲む綾人はご機嫌だ。 月曜から飲み続けていた病院にて処方された精神安定剤の薬も今日からは飲まなくて済むかもしれないと心がウキウキする。 「あぁ〜!登校が楽しみだ!」 キャッキャッと、飛び跳ねては喜ぶ綾人に部屋の扉が軽快な音を鳴らした。 時計を見るとまだ7時にもなっていない。 誰かと訝しんで警戒していると、扉の向こうで宿敵の声が聞こえてきた。 「綾ちゃん!ちょっと、いい〜?」 呑気なその声に綾人は何事かと鍵を開けた。 すると、そこには優しい笑顔の門倉が立っていて、無駄にかっこいいその姿に不覚にもドキんっと胸が高鳴った。 「おはよ。綾ちゃん。今日も可愛いね」 するりと頬を撫でられ、カァっと顔を赤くするとその手を振り払う。 「気易く触らないで下さい!僕に触れるのは今日の投票で僕に勝ってからですから!!」 ふんっと顔を背けて強気発言する綾人に門倉はクスクス笑いながら部屋の中へと押し入ってきた。 「ちょ、ちょっと!何!!?」 「ん〜。ちょっと調べたくてね」 迷惑だと門倉を押し返そうとするも、門倉は綾人の部屋を一巡したあと、玄関の扉をコツコツ叩いた。 「やっぱり、薄いな・・・」 ポツリと呟いたとき、綾人が腕を組んで嫌味かと唇を尖らせた。 「先輩の部屋が異常なんですよ。広いし豪華だし、防音効いてるし!普通はこれで十分です!トイレもお風呂も付いてて寧ろ立派です!」 「そう。それなら良かったね!じゃあ、俺は今日ここで綾ちゃんのこと、たくさん抱こうかな」 フフッと、爽やかな笑顔でとんでもない宣言をしてくる門倉に綾人は面食らった。 と、いうか、勝つ気でいる厚かましさに苛立ちも生まれる。 「・・・僕に勝てるつもりですか?」 「うん。勝つよ」 「全っ然、選挙運動してなかったくせにっ!?」 「勝つのにそんなの必要ないもん」 「裏工作したらその時点で僕の勝ちですよ!」 「そんなしょうもないことしないよ。なんなら、開票は綾ちゃんがしていいよ」 どこまでも余裕風を吹かせる門倉に不安が込み上がってくる。 何を企んでいるのか分からないが、生徒会の会長でお金持ち。そして、この容姿だ。 どんな卑怯な手を使うのか皆目見当も付かなかった。 「なに?俺が不正すると思ってるの?信用ないな〜。それなら、今から開票まで一緒にいる?」 ふわりと柔らかな笑顔で微笑む門倉にモヤモヤする不安を払拭することが出来ず、綾人は上等だと首を縦に振った。

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