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第69話

「寮のご飯も美味しいし、僕のことは気にしないでください!カレーもたまにでるし・・・」 今度は明らかな遠慮を見せる綾人に門倉がくすりと笑った。 「いいから。我儘言って?」 「・・・ゔぅ」 甘いマスクでそんな風に言われ、綾人の顔が赤く染まる。 「・・・・カレーライスとかオムライスとかドリアが好きです」 紅茶色の瞳がキラキラ輝いて見つめてくるものだから、キツくも言えず、綾人は口籠もりながら自分の好きなものを伝えた。 「門倉先輩は?何が好きなんですか?」 ふと、相手の好みも気になったのか綾人が聞くと門倉はまさか自分に興味を持たれるとは思わず驚いた。 「俺はね・・・、天ぷらとかお寿司とか好きだよ。お肉ならサーロインよりヘレ派かな」 「・・・なんだか、大人ですね」 目をパチパチさせて呟く綾人に門倉が吹き出した。 「大人って、綾が少し子供過ぎない?オムライスとかカレーとか。その調子ならハンバーグやエビフライとかも好きなんじゃない?」 クスクス笑いながらまさしく、その通りのことを言われ、顔を赤くして俯いてしまう。 「そ、そーなんですね・・・。僕が子供っぽいんだ。僕も天ぷらとかお寿司とか好きになるようにします」 何かを学んだように神妙な顔付で頷く綾人に門倉は腕を伸ばしてふわりと蜂蜜色の髪を撫でた。 「別に無理して背伸びしなくていいんじゃない?綾ちゃんの趣向もその内、変わるよ」 安心させるような柔らかな笑顔で微笑まれ、綾人は目を一瞬大きく見開いた。 その言葉にとてもプラス思考の考えを与えられ、胸が締め付けられる。 「・・・・ありがとうございます」 無理をしなくていい 背伸びをしなくていい そう言ってもらえた事が、自分でも驚くほど嬉しく思えた。 大好きなカレーライスへ視線を落とすと、綾人はにっこり笑って気持ちを立て直し、カレーを頬張った。

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