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第70話

「あーー!やだやだやだ!!キモい、キモい、キモいぃー!!!」 月曜日の夕方、綾人は門倉の部屋のソファでクッションを抱きしめ、悪の言霊を叫んでいた。 金曜日のあの情事の悲鳴はたくさんの寮生の話題となり、登校した今日、綾人に誰一人として声をかけてくる者はいなかった。だが、ほとんどの者が下半身を握りしめて俯くという事態を招いて、恐怖と恥ずかしさで気がどうにかなりそうだった。 あの、西條 ざくろにさえ目が合うと頬を赤く染められて視線を逸らされてしまったのだ。 「まあまあ、いいじゃん。これで暫くは綾の平穏が守れるんだし」 「守れてないよ!皆んな、下半身握りしめて僕の前に来るんだよ!?気持ち悪いっ!!」 馬鹿っと、怒鳴って綾人は抱きしめていたクッションを門倉へ投げつけた。 「少し周りが収まるまで俺の部屋で生活しなよ。ね?」 投げつけられたクッションをなんなく払いのけた門倉は楽しそうに笑いながら提案する。 そして、勉強用の机の上に小難しい書類の束を広げ始めた。 「俺もわざわざ様子見に行かなくていいから楽だしね」 綾人には聞こえない小さな声で呟くと、門倉はパソコンを起動させた。 ソファの上で未だ恨み言をボヤく綾人に門倉はどこ吹く風で私用の仕事に取り掛かった。 門倉が相手をしてくれないと分かるや、綾人はソファへ寝そべったり、歌を歌いだしたり、手遊びを始めたりと一人賑やかな事をし始めた。 いつもは静かな自分の部屋が綾人が来ると騒がしい。 愚痴るわ、泣くわ、歌うわとやかましいが、優しく構うと頬を赤くして、時に笑うその顔が門倉は好きだった。 サクッと仕事終わらせて綾ちゃんと遊ぼ! 軽快にパソコンを叩く指を動かし、門倉は仕事終わりのご褒美だと自分も鼻歌を歌い始めた。 一時間後、無事仕事を終えた門倉はやたら静かな綾人へ視線を向けた。 そこにはクッションを抱きしめて眠ってしまった天使がいる。 あまりの愛らしさに起こすのを躊躇ってしまう。 時計を見ると、あと少しで夕食なこともあって門倉はもう少し寝かせてやろうと毛布をかけてやったのだが、スヤスヤ寝息をたてる無防備なその姿にムラムラし始めてしまった。

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