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第73話
「綾人君?あーやーとーくん⁉︎」
「えっ‼︎?」
何度も名前を呼ばれ、綾人はハッと我に返って顔を上へと上げた。
「どうしたの?何か不安な事とかあるならちゃんと話してね?」
「・・・・はい」
今日は木曜日。
祝日で寮にいるのが怖くて、速水心療内科へと綾人は朝から逃げ込んでいた。
考えるのは週末の門倉との逢瀬。
あの勝負に負けてから2カ月が経つ。
怖いぐらい慣らされる自分の体に戸惑い、門倉の要求が増してはいつもパニックに陥っている。
明日の夜もまた約束の刻がくる。
そう思うと怖くて、不安で気が狂いそうになっていた。
「先生・・・、もっと強めの精神安定剤もらえませんか?」
ダメ元で言ってみると、速水は困ったなと顔を顰めた。
「ん〜・・・。これ以上強いの出すと副作用が出るんだよね」
「どんな?」
「薬が切れたあと、目眩、頭痛、吐き気とか。人によっては体の痺れや震えも出るらしい」
「でも、薬が効いてるときは・・・」
副作用よりも薬の効力を教えてくれとせびる綾人に速水が渋々答えた。
「リラックスできるよ。本当にキツイ薬だから」
「どれ位の頻度で飲んでいいの?」
「最高で一週間に一回だけ」
「・・・二回はダメ?」
できる事なら、金曜の夜と土曜日に飲みたいと綾人が聞くと、速水は首を横へと振った。
「ダメ。って言っても処方しないよ。本当にキツイ薬なんだ。綾人君の精神もだし体にも負担が掛かると思う。もう少し、今の薬で頑張りなさい」
そういうと、速水は薬を棚の薬箱へ直してトイレへ行くと去っていった。
速水が部屋から出るや、綾人は椅子から立ち上がり薬が直された棚へ手を伸ばす。
ダラダラと何十もの連なる薬を手にするとそれを急いで持ってきていた鞄の中へと入れた。
代わりに財布から数枚の一万円札を取り出してその棚の中へと入れておく。
先生、ごめんなさい
心の中で謝りながら、鞄を肩にかけると綾人は逃げるように病院をあとにした。
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