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第78話
朝の同級生の言葉が頭から離れず、綾人は昼休み一人でひっそりと中庭にて昼食をとっていた。緑溢れる木々に顔を上げ、ぼんやりとざくろの事を思い出して、お弁当をつつく手を止める。
衝・撃・的っ!!!
まさか、あの西條 ざくろがウリだなんて!
でも・・・
自分も良く似たものだと綾人は瞳を伏せた。
門倉に金銭ではなく、自分を守るという対価を貰ってはこの身を捧げているのだ。
蔑む気持ちなんて生まれなかった。
むしろ、仲間意識が強くなったほどだった。
人はそれぞれ事情がある。
ざくろの事情は知らないが、自分だって切実なのだ。
門倉にこの身を捧げて二ヶ月。
それだってまだ慣れなくて必死だった。
塞ぐ気持ちに相乗するかのように綾人は顔を伏せた。
「・・・・はぁ。なんだか、しんどいな」
瞳の色を暗く染め、綾人は口の中で呟いた。
今週もやってきた金曜日。
朝からやっぱり気分は憂鬱で、体と心は緊張感に苛まれた。
いつものように起きて、いつものように支度を済ませ、学校へと向かう。
授業を受け、ご飯を食べ、親衛隊と話をするという何も変わらない日常を綾人は黙々と過ごした。
そう、夜が来るまでは・・・
夕食の時間の19時が迫り、綾人はガチガチに再び緊張していた。
手汗が治まらず、足も震える。
落ち着くように深呼吸をし、ストレスからくる吐き気や頭痛を感じ始めると、急いで例の薬を飲み込んだ。
瞳を閉じて、数分後・・・
全ての症状は治り、ソファから立ち上がる。
「・・・門倉先輩のところへ行かなくちゃ」
嫌な動悸も冷や汗も、吐き気も頭痛も消え去ったことを確認すると、綾人は部屋をあとにした。
それからはいつものようにいたぶるが如く、好き放題弄ばれては土曜の夜から月曜の朝まで副作用に悩まされた。
そんな生活が一ヶ月を過ぎたとき、綾人は体調をどんどんと崩していった。
薬を飲めば吐き気も頭痛も治まるが、それ以降は全くと言っていいほど食欲も湧かず、胃の中を常にムカムカさせていた。
「・・・綾、なんか最近痩せてない?ちゃんと食べてる?」
「え⁉︎た、食べてますよ!ほら、こ〜んなに沢山食べてるでしょ?」
土曜日の昼下がり、門倉が用意した豪華でボリュームのあるサンドイッチを綾人は難なく平らげては、デザートのイチゴのアイスも食べきった。
「最近、暑いから・・・。でも、大丈夫です。ちゃんと食べてるんで」
自分の体調不良を決して悟らせないように完璧な満面の笑顔を向けると、綾人は用意された冷たいカルピスを一気に飲み干した。
自分が一週間でまともに食事がとれるのは金曜の夕食と土曜の昼食だけだった。
そのご飯も土曜の夜にはトイレにてリバース。月曜の朝まで胃液を吐くほどの災難に苛まれるのだが、そんなこと門倉に教える必要はない。
余計なことは言わず、聞かず、己のノルマのみを達成することだけを綾人は考えていた。
「綾ちゃん、今日は夕食は一緒に食べれる?」
「あっ・・・いえ、すみません・・」
美味しいといつも完食する綾人だが、何故か土曜の夕食には付き合わずに夕方を過ぎると急いで部屋へと戻る傾向があった。
別段、誰と会っているようでもないし何かを楽しんでいるとも聞いたことはない。
門倉としては、少しでも普通の時間も取り入れたいのだが、どうも避けられているようで面白くなかった。
「綾ちゃんの大好きなカレーライスなのに?」
「うっ・・・、ごめんなさい・・」
責められた子供のように顔を伏せて謝ってくる綾人に門倉はテーブルの上に頬杖をついて溜息を漏らした。
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