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第80話

「何かの薬の副作用ですね。あと、拒食症になりかけてます」 医師の診断に門倉は青ざめた。 「何の薬なんだ?」 「それはちゃんと、この子に聞かないと分かりませんが・・・。この子、精神科とかに通われてます?」 脱水症状態にある綾人に水分補給とビタミン補給の為の点滴を用意しながら医師は門倉へ聞いた。 精神科などと、まさかの言葉に目を見開くものの、その事実を知らない門倉は分からないとしか答えられなかった。 「そうですか・・・。まあ、かなりの強い薬ではありますね。この子に合わないこんな薬をその医師が渡したのならその医者、ヤブですから病院は変えさせた方がいいですよ」 綾人の衰弱する姿を見つめながら医者がそう言うと、門倉は分かったと小さく頷いた。 「針の外し方は分かりますよね?点滴終われば外してあげて下さいね。あと、何か急変したらまた連絡ください。精神科の薬が必要ならこっちの薬を飲むよう伝えてくださいね」 紙袋に入ったカプセル型の薬を門倉は受け取ると医師を部屋の外まで見送った。 眠る綾人の元へ戻ると、まだ青白く、カタカタ体を震わせては荒い呼吸を繰り返すその姿に不安が込み上がった。 状態がこれ以上悪化しないことを祈りつつ、綾人の眠るベッドの横へ椅子を運ぶと腰を下ろす。 綾人の汗ばむ額に張り付く髪を拭うように掻き上げてやると、触れられるのが嫌なのかビクビク体を跳ねさせる様子に門倉は渋々手を引っ込めた。 整理整頓された白と青色で基調された室内を見渡し、門倉は小さく息を吐いた。 俺、こいつのこと何も知らないな・・・ いや、知ろうとしなかったのか・・・ 苦しそうな綾人へ視線を戻してまた一つ大きな溜息を吐く。 二年間の付き合いだ 自分が飽きればその期間も短くなる そんなあやふやな関係 だから、門倉はこれ以上、綾人へのめり込まないようにとあえて何も詮索をしてこなかった。 金曜と土曜の逢瀬のみを楽しめばいい 笑顔の天使と食事を楽しみ、甘く乱れる綾人を抱き潰して飽きたら捨てる それが当初の予定だ。 それは、別に今も変わりはなくて・・・・ 『先輩には関係ないでしょ?』 その通りだ 俺には関係ない 『ちゃんと金曜と土曜、仕事してるじゃん。先輩に迷惑かけてないでしょ?来週もちゃんとする』 そうだ・・・ 綾はちゃんと契約を全うしてるし、迷惑もかけてない。 来週も笑顔で俺の部屋へ来ればいいんだ。 当初の目的通り、ギブアンドテイク。 俺の名前で綾人を守る代わりに金曜と土曜は綾人の身体を差し出すこと。 何の間違いもない。 ないけど・・・・ 「・・・・苦しい」 心が 痛んだ・・・・ いつものことだと言っていた いつも焦って土曜は帰るのはこれが理由だったのだろうか いつからこんな風になっていた? いつも完璧な笑顔を見せる綾人はかなり嘘が上手だとこのとき、門倉は初めて知った。 苦しそうに呼吸を乱して眠る綾人に額を押さえた。 先ほどまで笑顔で普通に振舞っていた綾人の姿からあまりに一変した姿に門倉は先ほどから冷静さを欠く自分を諌めるよう、目を閉じて気持ちを落ち着かせる努力をした。

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