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第82話

「門倉、夕涼み会の資料これでいいか?っつーか、明日から夏休み入るぞ!これ、間に合うのか!?」 生徒会室にて、この学園の風物詩であり一番力を注ぐ夏休み最終日、二日間の催し物『夕涼み会』の準備に生徒会は急かされていた。 7月終わりを告げるであろうこの時期、生徒会はフル稼働だ。 それなのに、生徒会長である門倉の指揮が最近疎かになっていて、役員達は右往左往している。 「あ・・・、うん。猛に任せるよ」 回される書類に黙々とサインだけをして、どこか上の空の門倉に幼馴染みの九流は何か言いたげに眉間に皺を寄せた。 周りはそんな二人が一発触発しないかを恐れ、オロオロする。 そんな感じで結局、仕事はそこそこしか進まず、今日も生徒会業務は幕を閉じた。 「てめぇの無能さのせいで夏休みが崩れる。このボケッ!」 恨みがましく役員が帰ったあと、机の上の整理をして帰り支度をする九流が門倉へ嫌味を投げつけた。 絶対内容など頭に入ってないであろう書類の確認の仕方をぼんやりと行う門倉の姿にギリッと奥歯を鳴らして、九流は拳を振り上げた。 「いてぇっ!」 ガツンと頭をいきなり殴られ、我に返ったかのように顔を上げると、そこには不機嫌な幼馴染みが仁王立ちしていた。 「一応聞くけど、その不調はなんだ?」 ぶっきらぼうに聞いてくる九流に門倉は目を瞬かせる。 「不調?俺が?」 言われた意味が分からなくて質問し返すと、九流は腕を組んで吐き捨てた。 「今のお前が不調じゃないなら、なんなんだ?門倉の仮面被った偽モンか?何があったか知らねーけど、あの恋人とかいう奴にでもちゃんとメンテナンスしてもらえ!」 フンッと鼻を鳴らして鞄を手に持ち、帰宅しようとしたとき、ポツリと門倉から返事が返ってきた。 「・・・別れた」 その言葉に九流は目を見開いて絶句する。 「なんか、疲れたんだって・・・。なんか、俺なりに愛情注いだんだけど、全然ダメみたい」 ふーっと、溜息を吐く門倉に九流は首を傾げた。 「そりゃ、お前みたいな身勝手な奴が相手じゃ疲れるだろ」 「え?」 「お前、愛情注いだってどんな風に?」 「・・・どんな風って」 言われるとなんで答えていいのか分からない。 「あいつにちゃんと気持ち伝えたか?」 「もちろん」 「好きって言った?」 「言ったよ」 「本当に?」 念を推すように聞かれ、門倉は押し黙った。 その間がどうしても信用できなくて、九流は門倉へ畳み掛けるように言った。 「門倉・・・。お前、自分ルールで接してねぇか?」 「自分ルール?」 「お前の気持ちのみで相手の気持ち、踏みにじってないか?俺から見た白木はなんだかんだ言ってモラリストだと思う」 真っ直ぐに門倉を見つめて自分の失態に気付いていない親友へ助言をするものの当の本人は首を横へ振って九流を突っぱねた。 「何を言いたいのか分からないけど、俺は俺の価値観変える気はない。猛はあの西條に熱上げてるけど、同じように俺は自分の信条もプライドも捨てる気なんてねーよ。お前のいう、俺ルールに則って付いてこれないなら綾もいらない」 愚かなプライドをみせる門倉に九流は溜息を吐いた。 「別にお前がそれでいいならいいけど、気付いた時には手遅れになってたら今より辛いぞ。俺は確かに俺の中のものを沢山崩してざくろを手に入れようとしてる。お前から見たらかっこ悪くて滑稽だろうよ。でも、俺はそう思ってない。それだけの価値がざくろにあると思ってるから。お前にとって白木がそれほどの価値がないならもう関わるな。無駄なこと言って悪かったな」 それだけ言うと九流はもういいと門倉へ背を向けて部屋を出ようとした。 そして、扉を開き、振り返り様、九流は門倉を指差してきっぱりと言い放った。 「てめぇ、すっげぇ上から目線だけど俺もお前も片想いっつーこと自覚しろよなっ!この自信過剰バカっ!」 その言葉に門倉は面食らっては絶句した。 そして、九流が部屋を出て行き、扉が閉まるとき、己の立ち位置に驚きを呟いた。 「片想い・・・。この俺が?」

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