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第83話

片想い・・・ 「片想いって、あの一方的に一人が好き好きっていう、虚しい状態のことだよな?」 寮への帰り道、門倉は幼馴染みに言われた言葉の意味をぶつぶつ呟きながら考えた。 「っつーか、俺。別にもう綾のこと好きじゃないんだけど・・・」 不愉快だとでも言うように、寮のエントランスを潜ると、まだ制服姿に鞄を持った綾人が沢山の生徒に囲まれる姿が目に飛び込んできた。 学校から帰宅して、追っかけにでも捕まり帰れないのだろう。 壁際へと複数の男に詰め寄られ、逃げ出したいのか、目を泳がせては狼狽えている。 あちこちから伸びる手にベタベタ体を触られては強張る笑顔で必死にそれを躱していた。 「綾ちゃ〜ん。俺の部屋来なよ〜」 「いやいや、こんなのの部屋行ったら大変だよ?俺のとこおいで?」 「お前の部屋、汚ねぇだろ!っつーか、天使の部屋行きてぇ〜」 好き勝手言うのは自分より上級生でタチが悪いと有名な男達だった。 「こ、困ります。あの・・・」 明らかに迷惑そうな顔を上げたとき、自分と目が合った。 助けを求めてくるかと少し期待したが、スッと目を逸らされてなんだか、ショックを受ける自分に驚きつつも顔には出さず、門倉は足を進めては綾人の前を通り過ぎる。 「綾ちゃ〜ん!お部屋に招待してくれよー」 一際大きな声がエントランスに響くと、次に綾人の悲鳴が上がった。 「やっ!止めてっ!!嫌だ!!」 「か〜わいぃ〜!いいじゃん、いいじゃん!!」 振り返った瞬間、腕を捕まれて抱きしめられる綾人の姿が目に入った。 「おい。その手、離せ」 自分でも驚くほどの低い声で相手を制する。 頭でものを考える前に体が動いていた。 自分自身、信じられない事態だったが、呆気に取られた顔で自分を見つめてくる綾人を門倉は掻っ攫うようにその細過ぎる体を抱きしめていた。

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