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第85話
「綾、体はどうなわけ?あの薬はもう飲んでないよね?」
「・・・・」
「今日みたいなセクハラ、いつから始まってるの?俺と別れたって綾が言ったの?」
「・・・・」
まだまだ聞きたいことは山ほどあったが、口を開こうとしない綾人に門倉も無駄と察したのか、口を閉ざした。
また変わらぬ嫌な空気が流れてきて、にっちもさっちもいかないと、綾人が詰めていた息を吐く。
「・・・あの薬はもう飲んでません。あと、門倉先輩と別れたことは僕が公言しました。だから、今後は迷惑かけませんから安心して下さい」
その2つの返答をすると、綾人はもういいだろうと席を立った。
しかし、それを必死に食い止めたくて門倉は咄嗟に口を開らいた。
「明日!出かけよう!!」
「・・・え?」
突拍子のない言葉に綾人が目を丸くする。
「いや・・・、明日から夏休みだろ?ちょっと買いたいものあるから付き合って欲しいなって」
「・・・・」
「今日、助けてあげたんだから荷物持ちしてよ。ギブアンドテイク!」
素直に一緒にいたいと言えばいいのに、馬鹿みたいに高いプライドが邪魔をして、門倉は嫌な誘い方をした。
そんな言われ方をした綾人も嫌とは言えず、視線を伏せて重い息を吐く。
「・・・明日じゃなきゃダメですか?僕、予定があって」
「予定?」
「はい」
その予定内容を教える気のない返答に門倉の中の意地が発動した。
「じゃあ、綾の予定も付き合うから一緒に出かけよう」
「え!?」
物凄く嫌そうな顔をしてきた綾人に門倉が間髪入れずに先手を打った。
「ギブアンドテイク!」
やけに明日の約束に拘る門倉に辟易しながら綾人は自分の部屋へと戻った。
帰りも大丈夫だと言ったのに、ご丁寧に門倉は部屋まで自分を送り届けてくれた。
恋人だという契約時、全くそのような気遣いがなかった分、感謝よりも驚きが勝る。
どうせ、また門倉の思いつきと暇つぶしなのだろう
ふぅーっと、息を吐いて綾人はベッドの上へと倒れ込んだ。
門倉と別れて数週間。
ギクシャクする関係に目ざとい輩に質問された。
『門倉とはうまくいってるの?』
あまり、別れたと言って周りを煽りたくなかったが、そう聞かれたら答えるしかなくて綾人は素直に門倉との関係が切れたことを告げた。
その噂は瞬く間に広がり、今日のように自分を待ち伏せしては何処かへ連れ込もうとする輩が続出した。
精神的に辛くて、主治医の速水から処方された薬を飲んでいたのだが、それもあと一つで底を尽きる。
明日はその薬を貰いに行く予定だった。
それプラス、自分があの副作用の強い薬を持ち出したことに気が付いた速水から怒りの電話があった為、明日は説教も食らうことになるであろう予測に気持ちは暗かった。
「門倉先輩も一緒とか、やだなぁ・・・」
憂鬱さが倍増すると、綾人は大きな溜息を吐きながら、ゆっくりと瞳を閉じた。
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