87 / 309

第87話

速水と十分戯れた綾人は来月の予約を済ませると病院を出た。そして、門倉へ頭を下げた。 「僕の用事に付き合わせて、すみませんでした。門倉先輩の買い物、付き合いますね。ちゃんと荷物持ちします!」 ふわりと微笑む綾人に無性に苛立ちを覚えて門倉はフイッと顔を背けて無視すると足早に歩き始める。 そのあとを綾人は駆け足に近い感じで必死に追いかけた。 身長差もあり、歩く速度を意識的に早めていることもあって綾人は肩を並べるは疎か、人混みに紛れられると門倉の姿を見失いそうだった。 案の定、人混みの交差点へ差し掛かったとき、人の多さに門倉との距離がかなり空いてしまった。 それでも必死に追いかけたとき、横断歩道を渡った所で門倉は三人の女の子に囲まれていた。 はあはあと、乱れる呼吸のなか知り合いなのかと少し距離を縮めると、どうやら逆ナンに合っているようで女の子達は積極的に門倉の手を引っ張ったり腕に絡みついたりと自分を売り込んでいた。 目を見張ったのはその三人がそんな強気なナンパに勝って出るほどの美貌を持っていると言うことだった。 「ねぇ、ねぇ!遊ぼーよー!」 「お兄さん、ほんと、カッコイイ!!超タイプなんだけど〜」 「彼女いるの?って、いてもいいから浮気しよ?」 グイグイ攻めてくる三人に門倉は優しい笑顔を浮かべては彼女達の髪や頬を撫でていた。 ・・・・これ、僕いちゃダメなやつだよね? その光景を見た瞬間、綾人は目を瞬かせては門倉と他人のフリを決め込むように、そっと距離を取った。 暑い日差しの中、走ったこともあり、汗だくで喉もカラカラになった。 とりあえず、門倉の邪魔にならぬよう木々が生い茂る木陰へと身を寄せ、そこで涼を取りながら、どうしようかと頭を悩ませた。 今日、自分は荷物持ちとして門倉に同行している。 だが、門倉は逆ナンに合ってそれも満更ではない様子 空気のように付き従い、荷物持ちに徹したらいいのか、はたまた邪魔者扱いになる前に空気を読んで帰宅するべきなのか分からなかった。 「・・・・どうしようかな」 門倉へ視線を向けるものの、こっちに気付きもせず、女の子達と楽し気に談笑する姿に綾人は瞳を伏せた。 そして、そっと地面へ座り込む。 門倉がこのまま女の子達と去れば、自分はお払い箱。呼ばれれば、荷物持ち続行だ。 それまでは待機だと、地面に落ちている木の枝を手にとって砂地へ落書きを始めた。 木々に止まる蝉が鳴き喚き、暑さで目の前が霞んだ。 「帽子、被ってこればよかった・・・」 ポツリと呟いて木の枝で帽子の絵を描く。 「カルピス飲みたいな〜・・・」 喉が渇いて、続いて欲望のままカルピスの絵も描いていった。 左手首に付けていた時計に目を向けると、あれから30分が経過していた。 もう一度、門倉へ目を向けるとまだ女の子達と楽しそうに戯れていた。 「・・・・・帰ろうかな」 ぽつんッと呟いて、木の枝を地面に置くと綾人はよいしょっと、立ち上がった。 暑さのせいか、くらりと一瞬眩暈を起こして足元がおぼつかない。 そのとき、トンッと肩を叩かれ、自分の名前を呼ばれて綾人は誰かと後ろを振り返った。 「白木⁉︎」

ともだちにシェアしよう!