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第88話

「・・・え?さ、くらだ?」 振り返ったそこにいたのは、緑のキャップ帽を浮かせて顔を見てた綾人の中学時代、同じクラスメイトだった桜田 淳(さくらだ あつし)だった。 「うわぁ〜!白木!久しぶりだな!相変わらず、可愛いいなっ!!!」 嫌味ではなく本心からなのか満面の笑顔で言ってくる桜田に綾人は嫌な気はしなかった。 「どうかした?元気なさそうだけど。俺、一人だから白木、時間大丈夫ならお茶でもしない?」 中学から変わらない明るくも優しい声で誘われて、綾人に笑みが浮かんだ。いつもなら断るものの暑さからなのか、冷たいものが飲みたいなと、首を縦に振ってしまう。 「あ、あのね。でもね、僕、高校の先輩ときてて・・・」 だから・・・と、やっぱりダメだと続けようとしたら、近くの自販機へ桜田は走っていくと、コーラとカルピスの缶ジュースを買って綾人の前へと戻ってきた。 「じゃあ、ここでならいいだろ?」 汗と太陽が似合う爽やかで明るい笑顔を見せる桜田に綾人はなんだか、沈んでいた気持ちが救われる思いになった。 「・・・ありがとう」 はにかむように微笑むと、差し出されたカルピスを受け取り、その冷たさに目を見開く。 「わぁ!冷たい〜!暑かったから嬉しい!ありがとう」 缶ジュースを自分の頬へと当てては冷たいとはしゃぐその姿に桜田は優しい瞳を向けた。 「相変わらず、こんなことで喜ぶよね。本当に可愛い」 言われて、綾人は口を噤んで小さく謝った。 「ご、ごめんね。鬱陶しいよね・・・」 「えぇ!?そんなことないよ?可愛いって言っただろ?それより、中2以来だな!寮に入ったって言ってたけど」 「綾っ!!!」 桜田の声を遮るように門倉の怒声に近い声が自分の名を読んだ。 桜田は言葉を止め、綾人は顔を上げて門倉を見る。 「先輩!!」 門倉を見ると、三人の女の子達はすでにいなくて代わりに不機嫌な顔をした門倉が目の前に立った。 「あ、あの・・・、女の子良かったんですか?」 「いいも何もない。綾のこと待ってたのに何してるわけ?」 「いや、邪魔かなって・・・、ここで様子見てて・・・・。すみませんでした」 どうやら、自分待ちだったのかと綾人は小さな声で謝ると門倉は桜田へ厳しい視線を向けた。 「っで?こいつは?」 ビリっとする程の怒気を含む感じに綾人は焦って紹介しようとしたとき、桜田がそれを庇うように自ら名乗り出た。 「こんにちは。白木の中学の同級生の桜田です。たった今、バッタリ会って懐かしいさに浸っていただけですよ」 バリバリの好青年の桜田に門倉の機嫌はどんどん悪くなっていった。 しかし、それを決して表には出さないように物腰の柔らかい笑顔を見せては桜田と対峙する。 「そうか。ごめんね。綾はいつも変なのに絡まれるから今回もそうなのかと思った。でも、同級生なら安心したよ」 「いえいえ!白木、可愛いですもんね。心配なの分かります」 あははと、明るく笑う桜田はポンポンっと綾人の頭を叩く。 「あっつ!熱中症なるぞ⁉︎」 綾人の頭の熱さに驚いた桜田は自分が被っていた緑のキャップ帽を綾人の頭に被せてやった。 「貸してあげる。被ってけよ!デートなんだろ?」 門倉を指差して笑顔を見せる桜田に綾人は目を瞬かせて首を横へと振った。 「ただの荷物持ちだよ。僕、先輩に借りがあるから」 「え?彼氏じゃないの!?」 「うん」 こくりと頷くと、桜田の顔がまた笑顔になった。 「そっかぁ!じゃあ、また会おう?俺、ずっと白木のこと気になってたんだ!」 嬉しそうに笑う桜田に綾人は頷こうとしたとき、門倉に肩を引かれて態勢を崩した。 「うっ、わぁ!」 びっくりするほど強い力に後ろへ転ぶと思ったが、抱きしめられるようにそれを防がれる。 「悪いけど、同窓会はまた今度でもいいかな?急いでるんだ」 王子様さながらの笑顔を向けて門倉が桜田へ言うと、桜田はすみませんと頭を下げた。 「俺、番号もアドレスも変わってないから!また連絡頂戴!」 「あ、僕も変わってないよ」 「マジで!じゃあ、今日にでも電話する!またな!!」 手短に話を済ませると、桜田は綾人に手を振った。そんな二人を引き裂くように門倉は綾人の腕を引っ張って歩き出した。

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