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第91話
「・・・・・綾ちゃん。お待たせ」
店を出て、気まづそうに視線を下げて綾人へ声を門倉は声をかけた。
「あ!いえ!!買い物へ移動しますか?」
俯いていた顔を上げて椅子から急いで立ち上がると、それを見た門倉がスルリと綾人と手を繋いだ。
「・・・へ?」
咄嗟のことに驚きつつ、素っ頓狂な声を出す綾人だったが、門倉はそれを聞こえないふりをして肩を並べ、歩調を合わせて歩く。
無言で嫌な緊張感が生まれて、どうしたものかと握り返すことのできない手へ意識を集中させていたとき、ゴクリと喉を鳴らした門倉が口を開いた。
「その・・・、さっきはごめん」
極小の声で呟かんばかりに謝罪をしてくる門倉に綾人は唖然とした。
「・・・許してくれる?」
不安気に顔を覗き込んでくる門倉にパニックになる。
何に対しての謝罪かも分からない上に自分は別に怒ってもいない。それに加えて、門倉のこの殊勝な態度に目を丸くした。
「ねぇ、綾。何か欲しいものある?プレゼントするよ?我儘言って」
謝罪に次いで、機嫌を伺うように優しい笑顔を向けてくる門倉に綾人は眉間に皺を寄せた。
「・・・いや、別に大丈夫です。っていうか、どうしたんですか?」
さっきまでのギスギス感からは考えられない豹変っぷりを見せる門倉に綾人は混乱した。
「別に。折角の外出なんだから綾ちゃんと楽しみたいだけ。その・・・」
「・・・なんです?」
言いたいことは言う。やりたい事は遠慮なくやる。本物の王様のようにいつも好き勝手する門倉が珍しく、歯切れの悪い様子を見せて、綾人は不思議に思い、首を傾げた。
すると、顔を赤くして握る手に力を込めた門倉が意を決したように口を開いた。
「デートしよう」
言われた言葉の意味が理解できずにいたら、体を抱きよせられた。
「・・・好きだよ」
再び顔を覗き込まれて、空いてた手で顎を捉えられる。
「綾、好きだ」
真面目な顔でゆっくりと目の前に王子の顔が近付いてきたとき・・・
「やめてっ!!」
気がつけば、ばちんっと門倉の頬を叩いてしまっていた。
「あっ・・・、えっと、その・・・」
キスされるのかと思った。
それが誤解じゃないのなら、叩いたことは謝れない。
顔を青くしてワタワタしてると、手を更に握り締めてきて、無表情の門倉の顔が近付いてくる。
「殴ってもいいよ。絶対お前のこと俺のもんにするから・・・」
紅茶色の瞳がキラキラ輝いて、甘い声が力強く囁いた瞬間、王子に見惚れた綾人は門倉に奪うように唇を重ねられた。
多くの人が行き交う道のど真ん中で人の目は二人に集中し、黄色い声が所々から湧き上がった。
羞恥に染まる意識のなか、それをはっきり感じ取った綾人は門倉を突き飛ばすと、今度は真っ赤な顔で脱兎の如く走りだし、寮へと逃げ帰った。
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