92 / 309
第92話
「こ、怖い!怖い!怖いっ!!」
一体、今度は何考えてるわけ?
バタバタと戻った自分の部屋へ雪崩れ込むように入ったとき、後ろを追いかけてきていた門倉の足が扉の隙間へ足を差し入れ、閉めようとした扉を阻止した。
「いっ!」
思い切り閉めた扉に足が挟まり、痛いと顔を顰める門倉に綾人の手が怯む。その瞬間、力づくで扉が押し開かれ、門倉が部屋の中へと入ってきてしまった。
「うっ!で、出てって!!入って来ないで!!」
青い顔で門倉へ叫ぶも、門倉は呼吸を整えながら綾人へ一歩、一歩近付いていった。
底知れぬ威圧感に一歩ずつ後退していったのだが、遂には壁際まで追い込まれてしまった。
「な、な、なんですか⁉︎お、大声出しますよ!」
自分に触れたら許さないと、気丈に振る舞うも、声は震えて気が動転する。
そんな自分を畳み掛けるように、門倉は綾人を腕と腕の間に挟んで壁へと追い詰めた。
「好きだよ・・・。怯えないでよ」
「・・・っ!」
困ったなと微笑む門倉に、どうしていいのか分からない。
怖いぐらい真面目な空気に戸惑った。
今まで好きとは言われたが、ヘラヘラ笑っては真実味なんてもの欠片も感じたことはない。
それが・・・・
「お願いだから、綾も俺と同じぐらい俺のこと好きになって・・・。苦しいんだ」
真摯な瞳が
声が
自分の心を掻き乱して、綾人は蜂蜜色の瞳を伏せた。
「目、そらさないで」
ググッと顔を近付けられ、口と口が触れそうな距離まで詰められ、瞳を上げると紅茶色の瞳に真っ赤な顔で涙目の自分の顔が映し出された。
「可愛いね」
目を合わせて微笑まれ、再び囁かれて心臓がドクンッと高鳴った。
「・・・やっ」
身を捩り、目を逸らそうとしたとき甘い声が制する。
「目を逸らしたらキスするよ」
「っ!」
そんなことを言われたら逸らせない。
必死に門倉の瞳を見つめていたが、熱い視線が痛くて怖かった。
もう、嫌だと逃げようとしたら壁をドンっと叩かれて竦み上がる。
「逃げたら、抱く」
その言葉にビクッと身を縮めて、顔を背けた瞬間、形のいい唇が口を開いて自分の唇を覆うようにキスしてきた。
「ッん!!」
逃げるように体を後ろへ引くも、壁に阻まれてそれは不可能だった。
それならと、左右へ逃げようと体を捩ったときヒョイっと体を抱き上げられて息を呑む。
「な、なにっ!?」
「逃げたから、抱く。言ったよね?」
すぐ側にあったベッドへすかさず下ろされて綾人は焦った。
何がどうなってるのか分からない
分からないけど、自分を組み敷く門倉はどこまでも本気なことだけが見て取れる。
「ま、待って!おかしい!!変だよ!!!」
嫌だと暴れたとき、両手を押さえ込まれて至近距離で見つめられた。
「俺、言ったよね?目を逸らしたらキスするよって。俺から逃げたら抱くって。綾がそうさせたんでしょ?」
物凄く理不尽かつ自分勝手なことを言ってくる門倉に綾人は叫んだ。
「し、知らない!!知らないっ!そんなのそっちが勝手に」
「いいよ。じゃあ、もう一回だけチャンスあげる」
赤い顔で責めてくる綾人に門倉は妖艶に微笑むと、綾人の額に自分の額を合わせ、目と目も合わせてきた。
目を逸らしたらキス
逃げれば、抱く。
訳のわからないこのゲームに顔を赤くする天使は負けの見えているこの賭けに何故か付き合わされることとなった。
ともだちにシェアしよう!