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第99話

「離してってばっ!!」 金曜日、門倉は学校が終わるなり綾人を一年の教室まで迎えに来るとそのまま自分の寮の部屋へと連行した。 その光景を目の当たりにした者は、別れた二人が寄りを戻したと電光石火のごとく学園中に噂を吹聴させた。 自分としては迎えに来た門倉を追い払いたい気持ちではあったのだが、人の目があることから、仲睦まじい関係を装うに越したことはないと渋々、笑顔で対応した。 そして、部屋へ連れ込まれてかれこれ一時間。 綾人はもう自分の部屋に戻りたいと怒鳴り散らしている。 「僕、帰りますってばっ!!」 「どうして?一緒にご飯食べようよ。今日は綾の好きなクリームシチューだよ?」 門倉家のシェフに注文したと、門倉は笑顔を向けては帰ろうとする綾人の腕を掴んで離さなかった。 「・・・じゃあ、ご飯食べたら帰りますからね」 じとっと、横目で睨んで線引きを見せる綾人に門倉はクスクス笑って滑らかな頬を撫でた。 「綾ちゃんが嫌なことはしないから。だから、泊まっていきなよ」 茶化すように笑う門倉はそう言うと、チュッと綾人の唇を掠め取る。 手慣れたその仕草が恥ずかしくて、頬を染めて視線を嫌そうに反らせた。 「・・・キスもしないで下さい」 「キスもダメなの?」 「駄目です!」 プイッとそっぽを向く綾人に門倉は、はいはいと頭を撫でて了承する。 半ば無理やりにやり直したあの日から門倉は凄まじく優しくなった。 気は遣ってくれるし、とりあえず綾人の嫌がることはしない。 エッチもあの日こっきりで、強く拒否すれば門倉は手出しはして来なかった。 ただ、こうして泊まりに来るのはやり直しから初めての事でどうなるか分からず、嫌に緊張が走った。 門倉は綾人が逃げないと分かると、握りしめていた手を離して、テーブルの上のノートパソコンを開きだした。 生徒会業務があるらしく、なんだかんだと忙しい様子の門倉に自分がここに居ていいのか戸惑ってしまう。 忙しいのなら、放っておけばいいのに・・・ 門倉の性格上、決して誰かに側にいて欲しいと甘えるタイプではない。 寧ろ、無利益なタイプは切り捨てるワンマンタイプだろう。 いつも優しい微笑みを絶やさない御伽の国の王子様はキラキラ輝いている。 同じクラスでも、その気のある生徒は毎日門倉の話をしては心酔していた。 元々、男に興味がない綾人としては厄介な相手だとは思う反面、この恵まれた容姿を持つ自分の盾になる人材としてはこれ以上右に出る者はいないと今でも思ってはいる。 だけど、見とれんばかりの綺麗な容姿はやはり目を奪うほどの魅力で、綾人も知らず知らずの内に王子の顔に魅入っていた。 その視線に気付いた門倉は綾人へ視線を向ける。 「どうしたの?キスしたくなった?」 グッと、距離を詰められて息を呑む。 顔を赤くして違うと口を開こうとしたら、言葉を放つ前に口付けられた。 「んっぅ!」 抵抗しようと手を振り上げたが、難なく押さえ込まれて、口内へ舌を差し込まれてしまう。 「ぁ・・・やっ!」 首を横へ振って逃げたとき、唇をベロリと舐められ、残念だと笑う門倉は押さえ込んだ腕を解放して離れた。 「キス、しないって言ったのに!嘘つき!!」 「だって、キスしてって顔に書いてたもん。綾が誘ったんだよ?」 心外だと肩を竦める門倉は再びパソコンと向き合った。 キスしてなんて、思ってない!と、ソファから立ち上がると、綾人は門倉と少しでも距離を取るべく、ベッドの上へと移動した。 距離を取れたことに、安堵の息を吐くとそのままコロリとベッドへ横たわった。 そして、パソコンを叩いて作業する門倉を盗み見る。 やっぱり、かっこいいものはかっこいい。たっぷり見惚れる綾人は自由な時間を持て余し、段々と眠気に襲われた。 そして、気がつけば瞼をゆっくりと閉じて意識を手放した。

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