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第101話
「凄く豪華〜!」
夕食のクリームシチューと柔らかなパン、生ハムがたっぷりのサラダに卵たっぷりのキッシュを前に、昼寝から起きた綾人は手を叩いて喜んだ。
「いっぱい食べたら、イチゴがあるよ」
「やったぁ!」
無邪気に笑う綾人が可愛くて門倉は気持ちが良かった。
「綾ちゃん、明日は何食べたい?」
「え?」
「俺、日曜は用事あるけど、土曜はフリーなんだ。だから泊まりなよ。ね?」
にこりと、微笑む門倉に綾人は口籠った。
別に変なことをするわけでもないし、この優しい門倉と一緒にいるのは綾人としてなんら問題はない。
それどころか、最近では居心地の良さも感じていて側にいたいとさえ思うこともあった。
「・・・ん。じゃあ、天ぷら食べたいな」
「え⁉︎」
まさかのリクエストに目を丸くすると、綾人が照れたように早口でまくし立てた。
「こないだ寮のご飯で食べたら美味しいって思ったから!海老や鱚の天ぷらが食べたいなって!!」
顔を真っ赤にしながらあれこれ言い訳するが、天ぷらは綾人ではなく自分が好きな食べ物で門倉は気を遣ってくれているのだと、笑みが溢れた。
「ありがとう。それじゃあ、明日は一緒に天ぷら食べようね」
可愛くて仕方がない
顔だけでなく、一つ一つの仕草やその行動がツボにハマる。
更には自分に合わせようとまでしてくる弄らしさに胸が討たれた。
今夜、我慢出来るか不安が込み上がる。
熱の篭る吐息を漏らすと、綾人の不思議そうな視線が投げられた。
小首を傾げるその姿は俺がこんな思いをしてることに気付いてなどいない証しで悔しかった。
だけど、とやかく文句を言える立場ではなくて門倉は天使から目を逸らし、部屋に備え付けのバルコニーへと視線を向けた。
いつもならカーテンを閉めている時間なのだが、忘れていたらしい。
「雨、降りそうだね」
天気の雲行きの怪しさに門倉が呟くと、綾人が振り返って外を見る。
その瞬間、ポツポツと降り出した雨は窓ガラスを濡らし始めた。
「そういえば、今日と明日は雷雨って言ってたっけ?」
「え⁉︎雷雨⁉︎」
明らかに青い顔をして強張る綾人に門倉は何かを察した。
はっは〜ん・・・。さては・・・
ニヤニヤ笑う門倉は意地悪な思惑が脳裏を掠める。
そして、その思惑を素知らぬ顔で口にした。
「ピカピカ光ったら悪い子の所に鬼が来るってよく言うけど綾は鬼、見たことある?」
「お、鬼ッ!?ほ、本当にいるの!?」
「いるよ。俺、見たことあるもん」
「・・・・」
んなわけねーだろ。と、クスクス笑って突っ込もうとしたら、綾人が慌てふためいて聞いてきた。
「ぼ、ぼ、僕っていい子⁉︎」
「へ?」
「わ、悪い子かな?鬼、来たりしないかな・・・」
冗談でなく真剣に考え出しては怯え始める綾人に門倉は目を丸くした。
綾人のことを何処と無く幼い幼いとは思っていたが、こんな幼稚園児や小学生を騙すような手口にまであっさり引っかかることに驚いた。
「僕、お風呂入る!」
食べかけのクリームシチューそっちのけにさっさと寝てしまおうと思い立ったのか、綾人は席を立ち上がった。
「綾ちゃん、ちゃんとご飯は食べないと悪い子だよ」
すかさず門倉が注意すると、綾人はビクりと肩を竦めてガタンっと席に座った。
「やっぱり、食べる!」
泣き出しそうな顔でスプーンを再び手に持つと、綾人はパクパクとシチューを食べ始めた。
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