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第102話

鬼・・・ 鬼って本当にいるんだ! 夕食を食べ終え、湯船に浸かりながら綾人は膝を抱えて顔面蒼白になっていた。 小さい頃、お父さんとお母さんが良い子にしないと鬼が来るって言ってた。 雷は鬼が怒ってるサインで悪い子を攫いに来やすいって言ったけど、まさか本当だったなんて! 生まれてこのかた16年間、なんだかんだと鬼に遭遇したことはない。 だから、やっぱり嘘なんだと思っていたが門倉の鬼を見たことがあるという一言で全てが覆された。 「こ、怖い!どうしよう・・・」 ただでさえ、雨風の音だけでも怖いのにあの電光石火とゴロゴロ鳴る地響きの音が綾人は大の苦手だった。 そんな事を考えていたら風呂場の窓硝子に金色の光が横切った。 「キャッ!!」 頭を抱えて身を丸くし、ゴロゴロと鳴る音が止むのを待つと綾人は一目散に風呂場を出て行った。 「か、門倉先輩っ!!」 全身まだ濡れたまま、下半身にタオルだけを巻いた状態でバタバタと綾人はリビングへと駆け込んだ。 コーヒーを飲んでテレビを見ていた門倉はずぶ濡れでタオル一丁の綾人にブーッとコーヒーを吹き出す。 「な、な、何!?」 「か、雷!凄い鳴ってて!!鬼、来るかもっ!!!」 窓を指差し、ワタワタ慌てふためく綾人に門倉は呆れたとソファから立ち上がった。 脱衣所へ向かってバスタオルを持ってくると、びしょ濡れの綾人の髪と体を拭いてやった。 借りて来られた猫のように大人しくされるがままの綾人に目のやり場に困る。 白い肌も石鹸の香りも不安そうに自分の服の裾を握りしめてくる仕草も堪らないぐらい門倉の我慢している欲望を刺激していった。 「綾、早く服をき・・・」 「ィヤァァアーーーーーッ!!」 カーテン越しからも分かる激しい稲妻とドーンっと近くで落ちた雷の音に綾人は悲鳴を上げて門倉へと抱き着いた。 「あ、綾っ!!」 「怖い!怖い!!怖いのっ!!!鬼が来るっ!!!」 「鬼なんて来ないよ!」 「来る!だって、僕、悪い子だもんっ!!」 ガタガタ震えて涙を浮かべて叫ぶ綾人に門倉は眉間に皺を寄せた。 頼むから服を着てくれ・・・ 抱きしめ返すこともままならなくて、とりあえず、門倉は綾人をバスタオルで包んで肌を隠させた。 「服、取ってくるから待ってて」 また脱衣所へ戻ろうとしたとき、綾人が嫌だとしがみついてきて身動きが取れなくなる。 綾人にその気がないのは百も承知なのだが、ギリギリまで煽られ続けてる理性が苦しかった。 門倉は目を伏せると、己を戒めるように深呼吸した。 「ちょっと、こっちおいで」 ヒョイっと綾人を抱き上げ、門倉はベッドの上へと下ろす。バスタオルを外す代わりに、薄手の毛布を頭から被せてやった。 「少し、落ち着きなよ。鬼なんて来ないから」 毛布に震える体を包むと、安心させるように門倉が言い聞かせる。だが、服の裾を決して離そうとしない綾人に胸がギューギュー鷲掴まれた。 「お願い・・・、側にいて・・」 上目遣いで見つめられ、門倉はそんな殺し文句を言われたらと辛いと瞳を閉じた。 「綾ちゃんさ・・・、雷の日は今までどうして過ごしてたわけ?」 可愛くて、可愛くて、可愛くて、我慢の効かない自分の手は綾人の体を抱き締める。 そのまま肩口に唇を寄せて、少しでも気が紛れることを祈りながら囁くように質問をした。

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