部屋へ戻ると案の定、綾人の姿はなくなっていた。 かなりガッカリしている自分に驚きながら部屋へと入ってソファに腰掛けようとしたとき、箪笥の扉が少し開いているのに気が付いた。 まさかと、箪笥へ近寄り開いてみると箪笥の奥で毛布に包まり縮こまって眠る綾人がいる。 「綾・・・」 泣いたのかほんのり目が腫れている姿に胸が痛んだ。しかし、それよりも可愛いさが先行しては心の底で何かがウズウズする。 「・・・はぁ〜。もう、これ以上苦しくしないでよ」 ボソリと呟き、門倉は毛布にくるまる綾人を箪笥から引きづり出すと抱きかかえてベッドの上へと横たえる。 そのとき、綾人の胸に抱くものに目を見張った。 それは昨夜、自分が寝巻きとして着ていたTシャツで、どうやら自分恋しさにそのTシャツを抱き締めて一緒に箪笥のなかへと逃げ出していたようなのだ。 カチリ・・・ 門倉のなかの何かが音を立てて動き出す。 好きという気持ちがブワッと込み上がって、溢れそうになる 奥歯を強く噛み締めないと、発狂しそうなぐらい訳のわからないことを叫びそうだった。 綾のこと知りたい 誕生日は？好きな色は？好きな場所は？好きな言葉は？ 自分が知らないことがあるなんて嫌だと思うほど気持ちの高ぶりか抑えられなかった。 もう、目を瞑ることなんて出来ない。 そんな自分に門倉は気付き始めていた。 この天使の顔がここまで好きなのだろうか？ それとも、鈴のように軽やかで愛らしい声だろうか・・・ いや、大人びようと必死になっては空回りしてる幼い子供のような所が良いのかもしれない 誰にも媚びず、強くいようとする気位の高い性格も好みだ もっと・・・ もっと、知りたい もっと深く綾人に関わりたいと願ってしまう。 溺れる・・・ 抜け出せそうになくて怖い どれだけ汚しても空高く舞っては自分の腕のなかからスルリと逃げてしまいそうなこの天使の羽根をへし折ってやろうと思っていたが、どうやら自分が本格的に毒気を抜かれてしまったようだ。 どうしたら、俺のものになる？ どうしたら、心も体も全てを委ねてもらえる？ その羽根を全てむしり取って自分の足元へ縋り付かせたい。 好きだ、好きだと思ってはいたが、どうやらまだまだ余裕があったのだろう。 そんな余裕が消え去るのも自分で分かってしまう。 イライラが止まらない 焦りが生まれる 胸が苦しくてドキドキうるさいんだ・・・ 門倉は自分自身でも、もう誤魔化すことが出来ない『本気』の感情に火が付いたことを、こうして認識してしまった。