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第110話
side 綾人
体が痛い
重くて痛くて動かせない
最近、気が付けばずっと門倉先輩といるな・・・
あの雷の日から綾人はほぼ毎日門倉と過ごしていた。
実は心ほだされかけていたこともあり、嫌ではなかったのだが、こうも拷問めいた情事の連続に再び門倉への恐怖心が高まっていっている。
実はさり気なく、精神科で処方して貰った薬も飲んでいた。
飲まなくても大丈夫な気もしていたのだが、過呼吸だの頭痛だのが襲ってきたらと怖かったのだ。
しかし、その薬も徐々に数が減ってきていた。
更には・・・
「もうすぐ、帰省シーズンか・・・」
暗く重い声が溜息と共に溢れた。
親がいない自分は家がない。
だから、この寮のある学校を選んだのだ。
だが、いくら寮だといっても帰省シーズンは必ずあるわけなのだが、浮き足立つ生徒達と違い綾人には行く場所が無くてその日が近付くに連れて気持ちが伏せていっていた。
担任に帰省シーズン一週間は寮へ残りたいと申し出た。
だが、寮のメンテナンスも行うらしくてそれは無理だと断られてしまった。
「ホテル、取れるかな・・・」
携帯電話で宿泊施設を確認していたとき、着信が入った。
「っ!!」
ディスプレイに表示されたのは唯一の親戚である今は亡き父の肉親からのものだった。
震える手で画面をタップして電話に出る。
「・・・もしもし」
『綾人君!?久しぶりね。あなた、盆は帰ってくるんでしょう?一週間ぐらい、いるんでしょう』
電話の向こうから聞こえるのは、少し甲高い叔母のもので、綾人は幾分安心した。
「こんにちは。盆は友人の家に泊まる予定なんで僕のことは気にしないで下さい」
当たり障り無く断ると、叔母の困った声が溜息と共に聞こえた。
『そんなの、ご友人に迷惑よ!帰ってらっしゃい!って言っても、私達家族旅行へ行くのよ!だから、留守番してもらえると助かるんだけど・・・』
最後の方は少し気まずそうな声の叔母に綾人は声を弾ませた。
「留守番、します!僕は旅行とか興味ないし、叔父さんと叔母さんと・・・、宏樹(ひろき)で行ってきて下さい」
口籠る箇所もあったが、綾人は極力明るい声を出して答えると叔母は嬉しそうに笑った。
『助かるわ〜!ハワイへ一週間ほど行く予定なのよ〜。お土産は買ってくるから!宜しくね』
声高々にそう告げてきた叔母は要件のみ伝えるとブチリと電話を切った。
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